owarai
□きらきら三日月に溶けた
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「あーあかん ほんっま、体痛いわー」
ソファに倒れこんだ井本さんの声が聞こえる。その台詞はやけに棒読みだ。自分で、「見たいのあんねん」と言ってつけたテレビを無視して、わたしに目線を合わせる。彼の上がった口角に、不安を感じながらも「大丈夫ですか?」なんて話をあわせてみる。
「昨日、番組でサッカーしてん」
「そうなんですか」
「勝ってんけど、ちょっと張り切りすぎたわー」
こきこきと、首をまわす。筋肉痛で体が痛くて動けないのだと言いたげな顔。いや、でもわたしが井本さんの家に来たときがっつり歩いてきて、「遅いわボケ」とかぬかしてましたよね?こんなに横暴っていうか我が儘でも、許してしまうわたしの愚かさにほとほと呆れる。
「こっち来いって」
「はあ・・・ なんすか?」
「ええから、来てみ?」
やけに整った顔。かっこいいし可愛いし。男前ランキングにランクインするのも頷ける。井本さんの言葉に、これ以上どうやって近づくんだよ!なんて疑問符を抱きながらも、ソファに倒れてる井本さんとの距離を数センチつめようとした。
「うおっ!」
「・・・お前、ほんまに色気ないわ」
呆れたような声が鼓膜に直接届く。ちょっと待ってください!言おうとした台詞は、井本さんのあたたかい手のひらに遮られる。頭を撫でられる感覚はそんなに好きじゃないけれど、井本さんの体温がじんわりと伝わるのは嫌いじゃない。
「なんなんですか、」
「ええやん、たまにはこういうのも」
抱きしめられてる状態でだってわかる。井本さんが、子供みたいに楽しそうに笑っているのが。そんな色を孕んだ声は、やけに優しくわたしの鼓膜に届いた。どうしようもなく井本さんを好きな気持ちが溢れて、井本さんの服の袖を掴んだ。それに気がついたらしい井本さんは、一度楽しそうに笑ってからきつく、わたしを抱きしめた。
090122