owarai

□いきられないふたり
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沸騰したことを知らせるように薬缶が音を出す。ソファに座っている一裕を一度だけ見てから、立ち上がる。見慣れた二人分のマグカップに、慣れた手つきでコーヒーを入れる。自分で言うのもなんだけれど流れるようにスムーズで、理論的だ。両手に白を吐き出すマグカップを持って、うまくソファに座る。一度だけ、転んでコーヒーをテーブルに零してしまったことがあるのだ。それを覚えているからか、一裕はフローリングに固定していた視線を一瞬、わたしに向ける。


「はい」
「・・・ん」


ことりと音を立ててマグカップはテーブルに着地。コーヒーの表面が少しだけ揺れて、そこに上手い具合で映った一裕の横顔がさみしそうに震えた。


「なんなんやろう、」
「・・・」
「何がとか誰がとか、そういうんちゃうねん。 ほんま、なにやってんやろ」


一裕が背もたれに全てを預けるように倒れこんだのが分かった。わたしは目の前に置かれた真っ黒いテレビの液晶画面をひたすらに見ていて、それでも一裕の潤んだ目まで、認識できた。手に持っていた自分のマグカップをテーブルに置いて、一裕のほうに体重を全部預けた。


「どうしたん?」
「なんか、寂しくなった」


わたしが、 わたしが、 それを強調するようにわらう。一裕の体はすこし冷えていて、掴んだ手は部屋にいるとは思えないくらい冷たかった。わたしがその冷たさを消すように強く手を握り締めると、一裕はいつもよりは弱く、でも体温のある笑みをこぼした。





090119
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