clapとowarai2

□埃舞う太陽(clap)
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「へえ、面白そう。」
「でしょ。智くんはこういうの好きだと思う」


つけ慣れたヘッドホンを外して、彼の声を聞く。少し離れた場所でテレビを見ていた彼がぴたりと私にくっつくように座った。自分の手では持て余してしまう大きさの本を彼が覗きこむ。私の右側に置かれたヘッドホンから聞こえる爆音に彼が眉を寄せて「耳、悪くなるって」と漏らした。お母さんのような台詞だ、と思い笑いながら、ipodの電源を落とす。そして、彼の呼吸音だけに耳を澄ますことにした。

ぱらぱら、厚めのページを捲るのを彼は只見つめていた。だんだんと体重が私の方へ傾いていっているのがソファーの軋みで分かった。彼の頭が私の肩に乗る。「眠いの?」と尋ねると「楽だから」との返し。私は楽じゃないんだけど。半笑いで返そうと思ったけれどそうはしなかった。ゆっくりとページを捲る。見ているのか見ていないのか、開いているのか判別できないくらいうっすらと開いた瞼。


「寝る?」
「・・・寝る」


彼が私の肩から頭を離す。一気に軽くなる肩。静かに起き上がった彼は、どさりと大きい音を立ててベットに倒れこんだ。そんなに眠いならすぐに寝ればよかったのに。少し笑ってしまう。おやすみ、と彼の声が聞こえた。それに返事をしてからヘッドホンに手を伸ばす。一瞬考えてから、ipodの音量を下げる。彼が起きたことにも、彼が近くに来たことにも気が付けるように。小さめの音と、向こうで寝ているであろう彼の事を考えると私までも眠気が訪れてきた。人間はなんとも感化されやすい生き物だ。ベットまで行くのもおっくうで、本をテーブルに置いてすぐ、ソファーに横になって目を閉じた。



090517

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