clapとowarai2

□利口な生き物 clap
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自分がこういう人間に成長するなんて思ってもいなかった。 人間と言うのは得てして利口で、狡賢くて、寂しい生き物だと子供の頃から感じてはいたけれど、私はどこか間違ったところに手を伸ばしてしまったのかもしれない。(いま、謝ってもそれはただの 自己満足)






「さくらい、 さん」
「翔でいいよ」
「はい」
「敬語もいいから 」

「… うん」






伸ばされた手のひらは、思っていたよりも大きくてあたたかい。ゆるり、私の頬を撫でた彼は泣きそうな顔をしていた。どうして今こうなってしまったかなんて誰にも分からなくて、私が彼を抱きしめてしまいたいけれど(そんなこと できるはずがないのです)本当は、あなたに縋ってしまった私がいけないのに、どうしてそんなに泣いてしまいそうな顔をするのだろう。

気が付いていたのだ、私があなたの名前を告げるときに酷く愛おしそうに目を細めることを。でも気が付かないふりをしていた。大切な人がいたから、   あんなにいつもきらきらと輝いている櫻井さんが、とてもちっぽけで弱い人間に見えた。






「ごめん」
「え」
「こういうこと、するべきじゃねえのわかってるけど」





ごめん、 彼は何度もそう言った。あなたの仕種も声も(今の、至極辛そうなカオも)全てを愛おしく思う。そんな感情を掻き消すように曖昧な笑みを湛えて、ありがとう 二酸化炭素と一緒に吐き出した。 全てが私のエゴだ。あなたを愛おしく思うのもあなたに触れてしまったのもあなたを傷つけてしまったことも。





櫻井さんの顔を見ないようにして、それで 全てを投げ捨てるようなキスをした。









にい 08.06.24
(タイトルは isさま)

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