Short

□半身
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「大野さん」
「なに その呼び方」

「髪の毛 黒いの似合ってるね」
「おー そっか?」
「うん、違う人になっちゃったみたい」





季節に不釣合いな冷たい風が頬とカーテンを撫でる。智くんは困ったみたいに眉をひそめてから「それはねえだろ」とやわらかく呟いた。(あ、なんか泣いちゃいそう)

きらきらと光を吸い込んだ見たいな智くんの髪の毛が好きだった、でもある日テレビをつけたら彼の髪の毛は漆黒に染まっていた。智くんと会ってないことを凄く実感した気がして気持ちが悪い。恋が綺麗に見えるのなんて一瞬のような期間だけ、だって今の私はこんなにも汚い。会いたいが溜まるとこんな風になってしまうんだ、と変な風に実感してしまった。ピークを超えてしまえば、久しぶりに智くんと会った今、どうしていいのかわからなくなってしまう。





「釣りとか行かなくていいの?」
「・・・ 最近会ってなかったから」
「だから来てくれたんですか」
「おう」





うまく頭が回らない。それでもやっぱり愛おしいって気持ちだけはいっぱいになって、でもそれをあなたに伝えたくて仕方がない訳じゃなくて、 「どこにもいかないで」 滑り落ちた声を聞いて智くんは目をほんのすこし見開いた。智くんの細くて綺麗な指先が私の髪の毛に絡まる、心地よさに目を閉じると「大丈夫だから」と赤子をあやすような声が私の耳にたどり着いて、笑った。








にい 08.06.24
(タイトルはisさま)

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