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□空っぽの鳥かご
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わたしは、あなたがたに言います。
求めなさい。そうすれば与えられます。
捜しなさい。そうすれば見つかります。
たたきなさい。そうすれば開かれます。
だれであっても、求める者は受け、
捜す者は見つけ出し、たたく者には開かれます。

    (ルカの福音書 11章 9〜11節)





「諦められない、」

「え、」

「って、昔言ったことあるよね。」

「ん、ああ」




求めて、願って、捜して、
それで必ず手に入るなんて嘘だ。
いや、手に入る人もいるかもしれない。
でも、それのしわ寄せだってどこかにくる。
そうしないと、この世界はすぐに崩壊するから。

だから、諦める。もうわからないの。この恋の意義が。
泣きながら誰かに言った気がする。
その人の顔は、いま思い出そうとしても、
なにか白い靄がかかった気がしてよくわからない。




「結局さ、欲しいもの手に入らなかった。」

「ああ。な。」

「潤は、欲しいもの、手に入れた?」

「手に入ってたら、ここにいないだろ」




しわ寄せは、ここにきた。
私も潤も、どうしてここに立っていられるのか。
そんなことも分からなくなるくらいの恋をした。
結局、みんなが平等に幸福になることなんて不可能なんだ。
もしも私が神様だった、こんな世界は作らない。
そう思っても、きっと、こんな世界が出来てしまうんだろう。
だって、この世界に人がいて、こうやって生活している限り
だれにも変えられない何かが出来てしまうから。
それは、プラスの意味なんて殆ど含まれていない中で。

ぱたりと雑誌を閉じた潤は小さく呼吸をした。
その姿はとても綺麗なのに、その後ろにある
彼の影を重ねて笑顔になる私はどうかしている。
私は、潤を見ていなくて、潤も私を見ていない。
それはそれで正しいのかもしれないけれど。
別にお互い、恋愛感情を持っている訳でもないのだから。

求めれば与えられて、捜したら見つかる。
それが本当なら、私の捜し方は甘かったのかもしれない。

そして、世界が私を中心に回っている。
そう思っている人間が地球上に何人いるのだろうか。
結局、TVに映っている人が、隣で笑っている人が、
次の日にこの世界からいなくなっても、
私の生活に出る支障なんて欠片も無い。
私から見た世界は、私の見方しか出来ない。
イコール私中心にしか世界なんて見えない。
それは、結果論だから。
もし私が彼から見た世界を見たいと願っても、
あの子から見た世界を見たいと願っても、
そんなのは、いくら求めたって無理で、
実現したとしてもそれはただの模倣でしかない。

ずっと考えていた。
潤は、あの男の子の代わりになれないように、
私は、あの女の子の代わりになんてなれない。
その重さを背負って、私たちは歩かなければならない。
私の痛みは私にしか理解できないように、
潤の痛みだって、潤にしか理解できない。
だから、結局、みんな一人で抱え込んで泣くしかない。
本当は誰かに慰めて欲しくても。




どうしてこの世界は出来たんだろうね。
そして、どうして生まれてきてしまったんだろう。
(そう思ったのは、私がまだ小さい頃のこと)




歩行する能力がどこかにいった私は、
また一人立ち上がって、笑った。
結局なにも残らなかったから。







にい 08.01.23
(title from 酸性キャンディー)

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