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□俯いてるなんてらしくない
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結局彼は優しすぎて優しすぎて、だからきっと損をしてしまう。


「マルちゃん」
「ん?」


すこしだけ滲んだ雫はマルちゃんが振り返ったときにきらりとひかった。
それはまったくもって綺麗じゃなくて、
こんなわたしたちを馬鹿にするようにひかっていた。
わたしは、うまい励ましの言葉も言えなくて
(ああこんなとき章大くんとかならどうするのかな)
でもこんな風になった彼をどうにかしたくてしょうがない。


「寒い?」
「や、大丈夫」


口角を緩やかに持ち上げた。
それはきっとマルちゃんの精一杯の優しさ。
でもマルちゃんはいまわたしにそんなことしなくていいのに。
ただほんの少しだけ泣いて、そしていつかまた誰かを好きになればいいんだから。
だから今は泣いてもいいと思う。でも無理に泣けとか言うわけじゃなくって。
ああこういうときに上手く言葉が出ないわたしの脳味噌の中身のなさが恨めしい。
なにか面白い事をすることができるわけでもないし、


「大丈夫だよ」


うんうんと考えていた思考が気がついたら片隅にいた。
ただ触れたかったわけでもないし、チャンスだと思ったわけでもない。
でも、なぜかわたしはマルちゃんにこうしてあげたかった。
椅子から立ち上がったわたしの手のひらは、へたくそに不器用にマルちゃんの頭を撫でた。
大丈夫だから、そうなにかに言い聞かせるように、
ただそういって優しくマルちゃんの頭を撫でて、そしてわたしの目に少しだけいた涙を拭う。

忘れろなんていわないよ。
大丈夫だから、無理やりマルちゃんのなかに入ろうなんて思わない。
踏み込まないしただ、ただまたマルちゃんが心から笑えたらいいな
そう思って、願って、それだけだから。
でも、いつか視界が晴れて、笑えるようになったとき、
わたしのことを考えてくれると嬉しいな。



俯いてるなんてらしくない
(だから、わらってみてください)




にい 08.03.21
タイトルはミュシカさま

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