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□コンクリートに沈んだ水
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卒業式の後、仲良しメンバーで集まって公園に行った。
その場所は、わたしの行ったことの無いところでしかもわたしは方向音痴。
なのに、二宮も遊ぶと言うからついてきてしまった。
目の前の公園でみんなが騒ぐ姿もこれが最後だと思うと少し悲しい。
でもその中になんでか混ざれないわたしは、一人寂しく帰ろうと思っていた。
そのとき、わたしの後ろから声が降ってきて、その声の持ち主は
わたしを途中まで送ってくれると言い出したのだ。
今までの流れを思い出すとなんだか不思議な気分になる。
いま隣にいる人とこうやって歩くことは、もう無いのだろう。
それが本当のことなのか信じられない。

「二宮、」
「ん?」
「そういえば、前に好きな人いるって言ってなかった?」
「ああ」
「誰?」
「ふ、なんでそんなの気にするかなあ」

二宮の声はふわりと消えていく。
わたしは二宮がずっと好きで、だから好きな人を知りたかった。
彼がみんなで騒いでいるところを見るのが好き。
彼が時折漏らす小さな笑い声が好き。
彼がわたしを見るときの目が好き。
全部全部ずっと見ていて、でもこういう瞬間に勇気を振り絞ろうと思っても
好きの言葉さえわたしは紡ぎ出せなかった。

「えー知りたいじゃんやっぱ!」
「なんで」
「もう、 卒業してさ、 会えなくなるし」

わたしは分かっていた。
これが二宮と過ごす最後の時間なことくらい。
二宮が卒業と同時に遠くに行ってしまうことくらい知っていた。
だから、もう会えないから、だから最後に、それだけ知りたくて。
真剣に会えなくなるしと呟いた声は車の音に混ざって
それで二宮の言った言葉は、

「また 」
「え?」
「また会えるじゃん」

遠くに行ってしまう彼はそういって虚空を見つめた。
また会えるわけないのに、その言葉は彼が好きな人を答えないために言った言葉かもしれない。
それなのにわたしは、なにも言えなくなってしまった。

「もうここまでくればわかる?」
「 あ、 うん」
「じゃ」
「ばいばい」

なんで二宮がわたしを送ってくれたのかもわからなくて
そうして去っていく彼の背中を見送った。
空は見事に曇っていて、コンクリートはわたしをあざ笑う。
それでも最後の二宮の言葉を忘れられないまま涙を零した。




コンクリートに沈んだ水
(すき、だいすき)


にい 08.03.17

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