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□生まれてくれて、愛してくれて、愛されてくれてありがとう
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細く長い指が雑誌のページをめくる。
その鋭い瞳は一字一句と取り逃がす事なく、内容を吸収しているように見えた。
それぐらい彼はいつでも真直ぐに物事に取り組んでいるのだと思う。
いままでずっとずっとわたしは隠し通していたけれど、
本当はずっと不安が胸の中に溜まっていたのだ。
潤はわたしのことを負担だとしか思っていないのだとしたら
でも、声に出したとき、空気が酷く歪んでしまいそうでいえなかった。
だけどこのままだとわたしは壊れてしまいそう。


「潤 、最近っていそがしい?」

「仕事?」

「うーん、いろいろ」

「いろいろってなんだよ」

「えーと、仕事とかプライベートとかー」

「まあ、 いそがしいかな」


髪を触ってわらう、その姿は酷く魅惑的でそのまま吸い込まれてしまいそうになる。
彼がわたしと会うことを負担に感じているのかもしれない
そんなことにふと気がついてしまったので、彼の横顔を見つめると悲しくなってしまう。
それでも、それだからこそわたしは彼をすきなんだと気がついた。


「たいへん?」

「なにが」

「わたしと会うのが」

「なんで」

「いそがしそうだから じゅん」

「そう思う?」

「なんとなく」


わたしの最後の一言はぷかぷかと宙に浮いて消えた。
潤はわたしの言葉を聞いてからすこし考えるような素振りをしてから
なにかを企むように妖しく、綺麗に、わたしを見つめた。
そうして言葉をひとつ、空気に滲ませる。


「愛してるからべつに大変じゃないよ」

「・・・え ?」

「なに? すげー驚いた顔」


潤の細くて綺麗な指先はわたしの頭を撫でた。
その心地よさはなににも変えられないくらい。
だからこれからも、彼がわたしのすきな色の服を着ていたとか、
久々に会ったときに、やさしく微笑んでくれたとか、
ばいばいって言ったあとにすこし強く抱きしめてくれたとか、
そんな彼と過ごしていった日常がわたしの全てをつくりだすのだと思う。





生まれてくれて、
愛してくれて、
愛されてくれてありがとう



にい 08.03.11
(title fromSADISTIC APPLE)

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