リオンはある部屋の扉の前で一人立ち尽くしていた。

入ろうか、入るまいか扉のノブをじっと睨み考え込んでいる。

「私………何で…?」




ごえいのきゅうじつ




「リオン、今日は珍しく予定がないんだ。だから護衛はお休みだよ」

好きな事をしておいで、そう王子に言われ、リオンは1日自由な時間をもらうこととなった。
王子とミアキスとリオンの三人で、お茶を飲んでいた時に突然言われ、リオンはお茶を吹き出しそうになる。
予定がないといっても、護衛が休みになるわけではない。

「お休みなんていりません!その間王子はお一人になります」
「大丈夫ですよぉ、リオンちゃん。その間、王子の護衛は私がしますからねぇ?」

ミアキスがお茶に口をつけながらにっこりと微笑んだ。

「…でもっ」
「たまにはリオンにもゆっくり休んでほしいんだ」

リオンは納得できず食い付いたが、柔らかく微笑む王子に言われ、ぐっと言葉を飲み込んだ。王子のこの笑顔には弱いのだ。

「…わかりました。ではお暇をいただきます。ミアキス様、宜しくお願いします」
「はぁい。任せてくださぁい」
「うん。いってらっしゃい」

リオンは渋々頷いて一礼し、微笑む二人に見送られ王子の部屋を後にした。


リオンは廊下を歩きながら、今日一日をどう過すか思案する。
王子の護衛を役目としてだけではなく、自らすすんでやってきたのだ。休みが欲しいなど考えたこともなかった。
なので何がしたいか、と考えても特に思い付かない。

「あの本はこの間読み終わったし…」


リオンは顎に手をあて、ブツブツと呟く。
とりあえず行くあてもなく城の中を歩き回り、いつの間にかある部屋の扉にたどりついた。

「ここは……」

リオンは自分の行動に驚き呆然とした。






「私……なんで…」

そう呟きながららも、リオンは意を決して扉のノブに手をのばす。
扉を開けようと手に力を入れたその時――


がちゃ

「きゃっ」


中から扉が開きリオンは声を上げて驚き、慌てて手を引いた。

「…リオン?」
「ロ、ロイ君…」


中から出てきたのはロイだった。ロイは驚いているらしく、目を瞬かせてリオンを見ている。

リオンがいつの間にか来ていたのは、ロイやフェイレン、フェイロンのいる塔の中の部屋だった。

「どうした、何か用か?」
「い、いえ。 用という訳では。何でもないです、それでは!」

不思議そうに首を傾げ聞くロイに、リオンは慌てて手を振り、踵を返す。

「お、おい、ちょっと待てよ」

この場を去ろうと歩き出した時にロイに腕を掴まれ、リオンは足を止め恐る恐る振り返る。

「な、何でしょう?」
「何でしょうはこっちのセリフだろうが。何か用があったんじゃないのか?」
「いえ、用があったわけでは…。王子に一日お休みをいただいたので、何をしようか考えているうちに、ここへ…」

眉を潜めて聞くロイに、リオンは答えてからはっとし赤面した。
これでは、ロイに会いに来たと言っているようではないか。

リオンはロイに掴まれていない方の手で顔を覆った。自分でもわけが分からず頭が混乱している。

「…へぇ、じゃあ今日は一日暇なんだよなぁ?」
「え?」

ロイの言葉にリオンは顔を上げた。ロイは嬉しそうにニッと笑っている。
リオンは掴まれた腕に力が込められるのを感じた。

「そう…ですけど、ロイ君は何処かに行く予定だったのでは?」

リオンは遠慮がちに聞いた。ロイに何か用事があるのなら、今ここで時間を費やさしているのも申し訳ない。

「あーいい、いい。ってか、今用事ができた」

手を振って悪戯な笑みを浮かべるロイを、リオンは訳も分からず見上げる。

「じゃあ、リオン、用事しに行くか。」
「ええ?私もですか?」

リオンはロイに腕を引かれるまま歩きついて行く。

「ロイ君、用事ができたって…。私がいては邪魔になるのでは?」

歩きながらも戸惑って聞くと、ロイは立ち止まりリオンを振り返って笑う。

「いいや、邪魔どころか、リオンがいねぇと困るな」
「え?」
「オレの用事は、今日一日暇なリオンに付き合う事、だからな」

ロイは言ってさっと向き直るとリオンの腕を掴んだ手の力を緩めて歩き出す。

「ありがとう…ございます」

リオンはロイの背中を見つめて微笑み、今度は引っ張られるままではなく、自分でロイの後を歩いた。





END




リオンサイドからのお話を書いてみました。
アンケートでロイリオ1位記念です。


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