ロイは自分の置かれている状況に、今までにないほど激しく狼狽していた。
「ロイ君?黙っちゃってどうしたんですかぁ?」
声の主はすぐ上から微笑みかけ、狼狽するロイを不思議そうに覗き込んできた。
コンコン。
ロイは、目の前の扉をノックした。
「はぁい、どうぞぉ?」
扉の中から声がかかり、それに従い扉を開け中に入る。
「あんたがオレを呼び出すなんて珍しいな。何の用なんだ?」
「ロイ君にお願いがあるんですぅ」
ロイを呼び出した目の前の人…ミアキスは振り返りにっこりと微笑んだ。
「お願い?オレに?王子さんにじゃないのかよ?」
眉を潜めミアキスを見た。ミアキスは相変わらず微笑んだまま、近寄りロイの肩を掴んだ。
「ロイ君に、であってますよぉ。ロイ君にしか出来ない事…いえ、ロイ君じゃなくてもできますけどぉ」
「オレじゃなくてもいいなら、他のヤツに頼めよ」
掴まれた肩を気にしつつミアキスを見る。
目が合ったミアキスは、真っ直ぐロイの瞳を覗き込む。
「ロイ君…リオンちゃんのこと好きですかぁ?」
「なっ…はぁっ!?」
いきなり予想もつかない質問に、すっとんきょうな声をあげ目を見開く。そんなロイなどお構い無しに、ミアキスは畳み掛ける。
「私は他の人にお願いしてもいいですけどぉ、ロイ君はいいんですかぁ?リオンちゃんとられても?」
「言ってることの意味がわかんねぇよ!」
頭を抱えそうな勢いでパニックに陥った。ミアキスは小さくと笑うとすっとロイの方へと近寄った。
「リオンちゃんに素敵な相手ができたらぁ、私は安心して王子と一緒にいられるでしょう?」
「何だよ、それ!?」
「だからぁ…」
ミアキスが耳元に顔を寄せてくる。
「リオンちゃんを押し倒しちゃって下さい、ね?」
そう囁かれ、身体中の血が沸騰するかと錯覚するくらい、顔を一気に赤面させる。
「お、押し…押し倒っ!?」
口をパクパクさせ、近くにある顔を横目で見ると、しっかりと目が合った。すると、ミアキスはすっと目を細める。
「そうですぅ。…こんな風にっ」
言い終わるが早いか、ロイは声を上げる間もなく足に衝撃を受け、次の瞬間には目の前に天井が広がっていた。
呆然とし目を瞬かせていると、横からぬっとミアキスが視界に入ってくる。
「こんな風に、不意をつけばリオンちゃんだって押し倒せちゃいますよぉ?」
「なななな、何すんだ、あんたっ!」
慌てて起き上がろうとすると、それをさせまいとミアキスが体を乗せてくる。
「リオンちゃんは真面目ですからぁ、これくらいしないと、駄目ですってぇ」
「そ、そうじゃなくて…」
「それとも、他の人がリオンちゃんにこんなことしちゃって良いんですかぁ?」
「それはっ…」
ミアキスの問いに言葉を詰まらせた。それをみてミアキスは満足そうに笑うと、さらに顔を近付けてくる。
「じゃあ、こうやって押し倒してそれから…」
「わかった、わかったからそこを退いてくれ!」
ミアキスを押し退けようと手を伸ばし、必死に叫ぶ。ミアキスは涼しい顔でロイの抵抗を阻止する。さすが女王騎士の力は、伊達ではないのだ。
「何でですかぁ、ロイ君?実践が大事で――」
がちゃり
ミアキスが不思議そうに聞いた時、部屋の扉が開き、外から人影が現れた。
「ミアキス様、ロイ君が来てると聞いたので―――」
ロイとミアキスは聞き覚えのある声が聞こえ、入って来た人を見た。
その人物は部屋に入りかけたまま、動かずに目を見開いている。そして、その後ろからもう一つ人影が増えた。
「どうしたの、リオン?そこで止まったらボク中に入れないよ…」
「王子…私……。お、お邪魔しましたっ!」
呼ばれた、扉で固まっていた人物…リオンは、後ろの人影に声をかけられ、はっとしてその人の名を呟いたかと思うと、部屋から引き返し走り去った。
「リオン…?」
その様子に驚きつつ部屋の様子を窺う王子と、ロイは目線が合った。
「ロイ…ミアキス。何、してるの?」
「王子ぃ、こんにちはぁ」
「はい、こんにちは。…それより、ロイ、追い掛けた方が良いんじゃないの?」
二人のいつもと変わらない会話を呆然と聞いていたロイに、王子がクイッと親指で扉の外を示す。
ロイは、はっと自分を取り戻すと、慌てて上に乗っていたままだったミアキスを押し退け、リオンが去って行った方に向かい走り出した。
「…女の子はもっと優しく扱わないとですよぉ…」
尻餅をついた形になったミアキスは眉を寄せながら、飛び出していったロイに向けて呟いた。
そしてふと顔を上げると、満面の微笑みを浮かべた王子と目が合った。
続く
な、内容がほのぼのとは離れて(?)しまいました。受け入れてもらえるか不安ですが…大丈夫でしょうか?(どきどき)
第2回企画アンケートの1位になった、ロイリオと王ミア、の小説の第1話です。少し長くなりそうなので、分けました。
この後どうなるか、気長に待っていただけると嬉しいです。