「あーやってらんねぇ」

ロイは吐き捨てながら、乱暴に部屋の扉をあけた。その様子にフェイロンは肩をすくめ、フェイレンは眉を潜めた。

「ロイ…何イラついてんの?」





かげむしゃのきゅうじつ  その3



「…別に」

ロイはドカッとベッドに寝そべり、ふて寝をした。
食堂からここまで歩いている間にリオンに対しての怒りは冷め、今度は自分に対して、不甲斐無いやら情けないやらで腹がたっていた。

リオンは王子が一番。王子が中心。そんなこと、今までに散々思い知らされているというのに。


なぜ感情が押さえられないのだろう?


ロイは暫く目を閉じ考えた。どんなに考えても、行き着く答えは一つ。

「結局は惚れた方の負けってことかよ…」

諦め混じりに呟く。フェイレンがロイの声に気づき覗きこんでくる。

「何か言った?」
「何も言ってねー」

フェイレンに言っても仕方のないことだと、手をひらひらさせてロイは答えた。

「ちょっとさっきからな…」
コンコン。

フェイレンが大声を上げようとした時、扉がノックされ、フェイレンは言葉を飲み込んだ。
フェイロンが、はーいと返事をして扉を開ける。

「あの…ロイ君はいますか?」

背中越しにリオンの声が聞こえ、ロイは閉じていた目を開けた。しかし、何となく気まずく動くことが出来なかった。
振り向きたい気持ちを押さえ、フェイロンとリオンの会話に耳をそば立てる。


「いるけど…寝てる、んだよね…」
「そうですか。ではこれを渡しておいてください」
「あ、ああ。わかった」
「では失礼します」

リオンが帰ったらしくフェイロンがパタリと戸を閉める音がする。
それでもロイは振り向かなかった。

「ロイ…起きてるんだろ?これ…」

フェイロンに近づいて声をかけられ、ロイはようやく体を起こす。

「うわ…何これ?へったくそなおにぎり」

フェイレンがフェイロンの肩越しに覗き顔をしかめて言った。
フェイレンの言葉の通り、フェイロンが差し出した皿の上には形の悪いおにぎりが数個乗っていた。

「リオン……」

ロイは呟くとフェイロンから奪い取るようにお皿ごと受け取り、慌てて部屋を飛び出した。

「あ、ちょっと、ロイッ!」

後ろからフェイレンの声が聞こえたが、それにかまっている余裕はなかった。
リオンはまだ近くにいるはずだからだ。



皿からおにぎりを落とさないように気をつけつつ、足早に廊下の角を曲がった時、リオンの後ろ姿を見つけた。

「リオンッ!」
「えっ?」

ロイは思わず大声でリオンを呼び止めた。リオンが大声に弾かれるように振り向く。
立ち止まったリオンにロイは急いで側に寄った。

「ロイ君…」
「あ、リオンさっきは…」

ごめん、と言おうとしてロイは躊躇した。素直になれず誤魔化すように頭を掻いた。
しかし、これじゃ駄目だと意を決し口を開く。

「さっきはごめ―」
「ロイ君、ごめんなさい!」
「え?」

リオンがばっと頭を下げた。自分が言おうとしたことを先に言われた上、なぜリオンが謝るのか解らず、拍子抜けし口をポカンと開ける。

「疲れているのに、私が無理に誘ったから…本当にごめんなさい」

申し訳なさげに見上げるリオンを見て、ロイはがっくりと肩を落とした。

リオンはロイが怒った理由を、嫉妬からではなく作戦の疲れからと思っていたのだ。

全く鈍いにもほどがある。

「あは、ははははっ…」
「ロ、ロイ君?」

ロイは力なく笑った。それを見たリオンはさらに心配げな眼差しを向けてくる。

「いや…何でもねぇ。それより、これ、ありがとな」
「あ、あのお腹が空いてるって言っていたので…すみません、上手く作れなくて」

ロイが持っていたお皿を指差すと、リオンが頬を赤く染め慌てて手を振った。

「何で?これで十分!というか、かなり嬉しい」
「そ、そうですか?」

安心したように微笑むリオンを見て、ロイは笑って頷いた。
自分のために作ってくれたのだ。少々見た目が悪くとも問題ない。

「ま、これでチャラにすっかな」
「え?何です?」
「いーや!な、天気いいから外で一緒に食おうぜ!」

ロイはリオンの勘違いも今回は目をつぶることにした。否、今回も、である。これで何度か数えきれないと苦笑をもらす。

「でもロイ君、疲れているでしょう?」
「腹減ってたら疲れも取れねぇって。それに、労をねぎらってくれるんだろ?」

ロイは悪戯な笑みを浮かべリオンを見た。リオンも心配そうな表情を満面の笑みに変え頷く。

「もちろんです!」
「じゃ、行くか…と、あー、さっきは、わりぃ。なんかイラついてさ」
「いえ、いいんです」


二人は改めて一緒に時間を過ごすため歩き出した。





END




かげむしゃのきゅうじつ、完結です。
思いの他長くなってしまいました。

リオンの料理の腕は良いかわかりませんが、きっと下手で不味くてもロイは全部食べちゃいそうですね(ザ☆妄想)









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