Original Novel

□Four Tethers〜絆〜
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ACT.1…『出会い』


 今日は、朝から雨が降っていた。
 梅雨時期とはいえ、もう三日も雨が続くとさすがに気分も滅入ってくる。
 何が一番最悪かというと、朝からお客さんが一人も来ないということだった。

☆☆☆

 ここは、喫茶店【FREE-TIME】。
 客席わずか15席ほどの小さな店だ。
 目の前には海岸線が広がっていて、夏には“穴場の喫茶店”としてそれなりに人気があるのだが…。
 それ意外の時期は、僅かな常連客以外はあまり来客のない、静かな店だった。
 かといってこの雨では、その常連客達も、住宅街から少し離れたこの店に足を運ぶ気にはなれないらしい。

 この店を一人できりもりしているのは、沙織という若い女性だった。
 こういう小さな喫茶店のオーナーになるのが昔からの夢だった。
 だが、ここまで客が来ないと――。

「このままじゃ開店休業だわ…」

 カウンターの中に座ったまま、沙織はため息混じりに呟いた。
 その時、カランコロンと客の来店を告げるドアのカウベルが鳴る。

「いらっしゃいませ!」

 本日初めての来客である。
 沙織はとびっきりの営業スマイルで出迎えた。
 ――だがその客は少し、様子がおかしい。

「だっ…大丈夫ですかっ?」

 外は雨。にもかかわらず傘もさしてなかったらしく、入ってきたその客は、全身ずぶ濡れだった。
 それだけならまだしも、入り口のドアの横にもたれかかるようにして、まるで何かから全力で逃げてきたかのように、肩で息をしている。
 しかもその足取りはおぼつかず、立っているのもやっとという感じだった。

(女…男?)

 沙織はまず始めに、こんなことを思った。
 とりあえずそのずぶ濡れの体を拭いてやる為に、タオルを持ってその人物に近づく。
 髪はショートで、身長も沙織より10センチは高い。Tシャツの上に一応短いサマーコートを羽織ってはいるが、下を向いているため顔は良く分からなかった。

「チッ…」

 不意に、その人物から小さい舌打ちが聞こえる。
 タオルを掛けてやろうとしていた沙織の手が止まった。

「ホントに…大丈夫、ですか?」

 恐る恐る、もう一回聞いてみる。
 なんか、本当に大丈夫なんだろうか、この人?
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