街はこんなにも温かで


カップルであふれているのに



私は…


泣いている。


つい一時間前彼氏に振られた
最低な男だったんだと自分に言い聞かせて気分を変えようと必死になっている
怒りに震えた拳は誰に当たることなく行き場をなくしていた



『なん、でっ…!』



拭っても拭ってもあふれでてくる涙は私をひどく惨めにさせた

周りは熱いくらいなのに私はこんなにも冷たいのだから
神様は不公平だなんて言いたいくらい


歩きだそうと一歩踏み出した
ここにいても私の心は朽ちていくだけなのだから
惨めな思いはもうたくさん

突き刺さる周囲の視線を振り払って歩きたい


するといきなりグイッと肩を引かれ後ろに倒れそうになったとき誰かの腕に支えられた



「なーに、泣いてるの?」


『か、河村ッ。』



振り向いた先にはよく知るクラスメイト

ニコッと笑うと恥ずかしそうに顔を染め、頭をポリポリとかいた
そしてポケットから静かにそっとハンカチを出して私に手渡してきた



『見て…たの?』


「何を?…泣いてたみたいだから声かけてみただけだよ。」


『そう…。』


「なんかあった?」


『なんもないっ!』


「あっ!今、暇?」



今日は、アイツと過ごすはずだったけど…その張本人がいないのだから用事も皆無だ

涙にハンカチをあてがったままコクりと首を縦に振った



「じゃあ、ちょっと付き合ってもらっても良いかな?」


『いいけど…どこ行くの?』


「いいところ!」



そう返答した後すぐ手を掴まれ、引かれた
転けないように時折心配そうに振り返りながら前へと進む

優しいなぁ…
だって何回も助けられてる


アイツに殴られたり、ひどい言葉言われた後はいつも河村がそばにいてくれた
私が泣き止むまで…
隣にずっと

その後部活の部長の手塚に怒られてたっけ…



「ちょっとここで待っててくれるかな?」


『う、うん。』



急に立ち止まったかと思えば河村はスタスタとなんかのお店に入ってしまった

暗い夜道のある一角にひっそりとそびえ立つそのお店を見上げる



[フラワー○○○]



今時ここへ行くことなんてないと思ってた
街はあまりにも色が少ないし、フラワーショップなんて…

何分かしてすぐに帰ってきた河村



『何買ってたの?』


「え?何も??」


『じゃあ、なんで花屋に?』


「可愛いお花ないかなって!」


『河村って実はコッチの人ぉ?』



手でおかまのポーズをすると首をすごい勢いで横に振った

ま、そんなわけないとは思っていたけど


スタスタとまた歩き始めて数分
チョロチョロと音を立てて流れる川の近くのほとりに立ち止まる
月明かりに照らされてキラキラと輝きを増した



『キレイ…。』


「だろ?」



照れ臭そうにハハッと笑って会ったときのように頭をポリポリとかいた



『ハハッ…。』



私がこぼした苦笑いをすぐに感じ取ったのか頭をかく手を止めて、私が腰掛けた場所のすぐ隣に腰を下ろした



なんか不思議な感じ
これがいつも通りで当たり前のように思っている自分に笑えてくる



「ここ、オレのお気に入りのところなんだよね。」


『へぇ…なんか思い入れでもあるの?』


「実はさ、ここはね、部活とかで失敗したり嫌なことがあったり、試合で負けたときに来るんだ。なんか癒されるだろ?」


『うん。…部活の失敗ってどんなことなの?』


「主に手塚に怒られたり!」


『手塚って怒ったらめっちゃ怖い?』


「口癖がグラウンド20周だからね!」


『えー…でもさ、なんでそうやって失敗したり嫌なことがあってもそれを続けるの?』


「それは、キミがよく知ってるんじゃないかい?」


『……そうだね。』



私がよく知ってるよ
だってアイツのことが好きだったんだから
どんなに殴られても、けなされても、私はアイツから離れなかったんだから

好きだから続けたんだ
嫌なことも何もかも受けとめて、アイツを好きになったから



「で、何があったの?」


『え?』


「振られちゃったんだろ。」


『なんで知って…、』


「実は最初から見てたんだ。」


『そっか…。アイツから言われたんだよね。まあ、わかってたんだけどさ!もうダメだなって…でも、まだ私は終わらせたくなくて、』



さっき涙は乾いたのに、またとめどなく涙があふれでてくる
アイツのために泣くのは終わりにしたい

私を全部占めてるアイツが嫌だ


泣きたくない
泣きたくないのに私の意志に反して流れ出る涙



『もうっ、いい、加減、前っ前にす、進みたい…!』


「そっか。」



一言だけ
でもそれが今の私を受けとめてくれてるようで嬉しくて、心地よかった

冷えきってた体が少しずつ温かくなる、そんな感じがしたんだ



ポンポン



優しく頭を撫でてくれるその手が温かくてまた涙を誘う
歯止めが効かないくらいに泣けてきた



「悲しい想い出はここで流すといいんだよ。」



そう言ってウィンドブレーカーの中から取り出した花
フラワー○○○、さっき行った花屋で買った花だった

何も買ってないって言ってたのに…



「この花、知ってる?」


『知らないよ。教えて?』


「この花はね、彼岸花って言うんだ。花言葉は[悲しき思い出]って言うんだよ。」


『悲しき…思い出?』


「そう。ほら、これって持って!」


『う、うん。』



そっと私の手の中に収まるその花はとてもキレイで、少し羨ましく思う

こっちおいで、と立ち上がり川の近くまで手招き



「はい、これを水のうえに乗せて。」



静かに水のうえに彼岸花を置く
するとその花はスイスイと泳ぐように優雅に流れていった



「忘れなよ。悲しい思い出は。オレが塗り替えてあげるから。ずっとそばにいてあげるから。アイツのことは忘れなくていいから、辛いことはバイバイ。」


『うん、ありがとう。…河村っ!私、河村の家のお寿司食べたいなぁ!』




バイバイ、悲しき想い出



こんにちは、河村さん。










彼岸花
―さようなら、悲しい思い出―





2007.01.04
輝羅


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