『あっ。』





今日も快晴
暖かな日差しの中私は病院にこもりきり
誰もお見舞いに来てくれない
私は、そう
独りぼっちだった
外に出れない私は窓から外の景色を見ることしか出来ない

カーテンを開けるとポツンと土がまだ付いてる花が置いてある



『また…。』



誰かわからないけどいつもここにこの花を置いていく

密封されたこの空間にただ一つ華やかな色がこの花だけ



コンコン



「失礼します。」


『ねぇ!今日も置いてあったの!!』


「あら本当ね。待ってて、今取ってあげるからね。」


『うん!』



しばらくして看護婦さんは土がまだ付いてる花を私の手に置いた


花びらの部分に少し水滴が付いている
ピンっと真っ直ぐ咲いているこの花はとても綺麗だ

この花はきっと私より外の世界を知ってるんだろうななんていつも考える



『綺麗だよね。』


「そうね。あ、お花の本でも探してきましょうか?」


『うん!ありがとう!!』


「でも、ホントに綺麗な花ね。」


『うん…お花の妖精さんがきっと外に出れない私を思って運んでくれるんだわ。』


「フフッ。そうね。」


『窓、開けちゃダメ?』


「今日はダメかな?明日ならきっと大丈夫よ。」



そう言って看護婦さんは笑った
でもね
昨日も一昨日もそう言ったんだよ?


早く外の空気を吸ってみたい…



『しばらく寝るね。』


「わかったわ。それじゃ、何かあったら呼んでね?」


『うん!』


「おやすみなさい。」


『おやすみ。』



パタンッ



静かにドアは閉まった

私はこの狭い部屋に一人きり
どんなに願っても外には出れない


自分のためだって言い聞かせてる

ちゃんとわかってる
わかってるけど
ないものをねだって
周りを困らせるつもりはないのに

わからないうちに困らせてる



疲れた


少し寝よう…











夢を見てた


外を歩いて

お花を摘んでる夢

誰かが向こう側から走って私の名前を呼んで何かを差し出してくれる夢


これは…あのお花?



コトンッ



『んっ……。』


小さな音で目が覚めた

いつの間にか日は暮れて星空だ


横を見るとカーテンに人影が映っている
ゾッとした
ナースコールに手を伸ばす



「う、うわっ。」


『え?』



カーテンを一気に開けると男の人が立っていた

片手にはあの花を持って



コンコン



窓を軽く叩くと驚いた顔をしてこっちを見ている
暗くてよく見えないが土の付いた手に少しくせっ毛の髪の毛
整った顔が月明かりでチラリと見える

この人が妖精さん?


ニコッと笑うと少し戸惑いながらも笑顔を返してくれた
そして私は窓ガラスに指を当てて文字を書く



【こんばんは。】


≪こんばんは。≫



泥の付いた指で確かにこう書いた
そしてまた私は窓ガラスに指を当てる



【寒い?】


≪寒くないですよ。≫


【お花の妖精さん。このお花はなぁに?】


≪かきつばたですよ。≫



窓ガラスに指をはしらせてはまた妖精さんもはしらせる
泥が付いてるけど綺麗な指で

あれからずっと窓ガラスのおしゃべりをしていたら急に妖精さんはいなくなった
それと同じぐらいに朝日が私の目に映った
綺麗な朝日がかきつばたを照らす



コンコン



「失礼します。」


『あ、聞いて!聞いて!!』


「フフッ。どうしたの?」


『今日ね、お花の妖精さんが来たの!お話したのよ。』


「あらあら。お花の妖精さんはどんな人だったの?」


『すごく綺麗な人だったの。』


「そう。良かったわね。」


『それでね、このお花、かきつばたって言うんですって!』


「そうなの?」


『うん!』



コンコン



「あら?」


『誰だろ…。』



私の病室に誰かくることなんてなかった

看護婦さんは別として
この病室のドアは開かれたことはない

きっと病室を間違えたんだ

そう…親なんて来たことないし
来ても私は、黙って狸寝入りをすると思う


親だなんて思ってない



「どうぞ?」



ガチャッ



『…妖精さん?』


「え?」


「こ、こんにちは。」



私は、ドアの向こうからひょっこり顔を出した妖精さんに勢い良く抱きついた



「フフッ。私は、仕事に行くわね?」


『えっ、ちょ!』



パタンッ



ドアは静かに閉まった
そして私は、妖精さんを見上げる


『妖精さん、どうして朝は逃げちゃったの?』


「ボクの名前は観月はじめです。」


『はじめ?』


「はい。コレを取りに行ってたんですよ。」



差し出された花は全部かきつばた

かきつばたはとても綺麗で、渡すはじめの指は泥まみれ
水の香りがほのかに薫った
いつも飲んでる水じゃなくてもっと自然な…薬品の匂いのしない水の香り

それは初めて嗅いだ外の匂い



『なんで、いつもはじめは私にかきつばたをくれるの?』


「好き、だからです。ボクの後輩がここに通院してたときにボクは君を初めて見たんですよ。」


『私を?』



はい、と答えて私が腰を掛けていたベッドにはじめも同じように腰を下ろす
私の隣に…



「この狭い部屋に1人で儚げに窓から顔を覗かせている君を見ていたんです。」


『でも、なんで、いつもはじめは私にかきつばたをくれるの?』


「外に出れないと聞いたから。少しでも外を知ってほしかったんですよ。」


『かきつばたしかもらってないわ。でも、ありがとう。』


「笑顔が見たかった。嬉しいですよ。そしてかきつばたをいつも送っていたのはね…」



はじめは私の耳に唇を寄せて静かに優しく囁いた



「花言葉が[幸運は必ず来る]だからです。」



そっか…

はじめは私の幸せを祈っていつも泥まみれになりながらも取ってきてくれたんだよね


私は、それだけでも幸せよ

だってあなたが、はじめが私の幸運なんだから

そう思うと彼が愛しくて、泥まみれの手を優しく包んで私も静かに優しく囁いた



妖精さん、ありがとう










かきつばた
―私の幸せはあなた―






07.11.13
輝羅


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