明日は彼女の誕生日。

だが、何をあげればいいのかわからず、ショッピングモールでうろうろしているボクがいる


全然決まらない…はぁ。


この世でたった一人の大切な人。その人の誕生日に何もあげれないなんて……情けないにもほどがない。

いつも笑って支えてくれる、励ましてくれるあの人のために何かあげたい。いや、あげるのが当然なんだろう…



「おや、金田くんではありませんか。」


「あ、観月さん……。」


「こんな時間に1人で出歩くなんて感心しませんよ。と、言いたいところですがボクも同じ状況ですからね。」


「あ、すみません。」



観月さんがこんなところにいることにビックリしていると、軽く叱咤された。でもなぜかいつもより穏やかな表情で刺のない口調。

顔が幾分にやけているのは気のせいではないだろう


なんでここにいるのか聞きたいところだけど、やめておこう。なんか長話しになりそうだし、それに自分もなんでここにいるんだと言われれば話しづらい。気恥ずかしいし……うん。


あ、でも、と思い一つだけ聞いてみることにした。きっとボクよりこういうことに関しては観月さんの方が詳しいはず!



「あ、あの、観月さん?」


「んふっ、なんですか?」


「もし、もしですよ!もし、その、えーっと、と、友達が相談してきたんですけど……。」



詰まる言葉が羞恥をさらす。こんなこと人に聞いたこともないし、聞くことでもないような気がした。でも、それでも今の現状を打開するために聞かなければ。

汗で少ししっとりと湿った手をぐっと握り締めて観月さんを見つめた



「す、好きで大切な人が明日誕生日で…何をあげたらいいと思いますか?あ、あの友達が言ってたんですよ!!」


「………ボクに聞いていいんですか?」


「え?」


「じゃあ、その友達に言っておきなさい。それで彼女が喜ぶのか、と。」


「え………あ、はい。」


「頑張ってください。」



が、頑張ってくださいって……やっぱりバレバレだったのかな。さすが観月さん。ボクの尊敬する先輩の一人だ

そうだよなぁ。自分で考えて選ばなきゃあの子も喜んでくれない。きっと、表面上は喜んでくれるかもしれないけど、それでも表面上だ。心の底から喜んでほしい。


………なにがいいんだろう。


また振り出しに戻ってしまったけど、さっきよりは幾分マシ。人に頼ると言う考えが消えたからだろうと思う、たぶん。ちゃんとはっきりしたから



「はぁ……。」



夜のショッピングモールは人で溢れていて、なんか、孤独。特にカップルが多い。家族連れも多いけど、目立ってカップルがいる気がする

なんだかなぁ…寂しいって言うか、あの子にすごく会いたいって言うか、なんというか。


明日は何をしようか。プレゼントは最後に渡そう。夜になるまで一緒にいて、手を繋いだり、しちゃって……あぁ、恥ずかしい!想像するだけで舞い上がって頬が火照ってくる


変な想像を頭を勢い良く振ってかき消すと現実に目を向ける。さて…どうしようか、プレゼント。早くしないと店が閉まり始めてしまう時間帯だ。



「指輪、いかがですか?」


「指輪……。」



誘われるようにふらふらとその声の方へ近寄ると目が飛び出すぐらいの高額にめまいがした。無理、指輪なんて無理、高すぎる。

財布を開いて見て絶望した。なんだこの貧乏、寒々としたような財布は。いつ、使ったっけ……?貯めてたはずなんだけど



あ。確か新しいシューズを買ったんだっけ。うわ、ボクってすごくばか、あほ、もー。



「どーしよ……。」



すっからかんの財布と向き合ってため息を吐く。これからどうしようか、帰ってしまおうか。そうだよなぁ。お金もないし。



「うわっ。」


「あー!」



あー…やってしまった。ドジなボク。帰ろうとショッピングモールから出ようとしたときに何かにつまずいてすっ転ぶ。ぶちまけた何かをとっさに掴んで拾い集めるとふと香った甘い匂い。

握った拳を開いてじっと凝視すると小さな花が何本も。すぐに倒れていたかごの中に入れてまた拾い集める



「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


「はぁ…大丈夫ですよ。」


「あ、あの、弁償……。」


「って、言ってもあんたあんまりお金もってないだろ?」


「あ……すみません。」


「お金もないのにこんなところで何しているんだ?」


「えと、彼女の誕生日プレゼントを買いに……。」



へえ、とお店の人は一息吐くと散らばった葉っぱをさっさと掃除すると店のなかに入ってしまう。なぜだかボクもつられるように中に入る。

入った瞬間にすごく甘い匂いがボクの鼻をくすぐった。そして、入った瞬間ボクの目を奪ったきらびやかな赤い……



「あの!こ、これください!!」


「これ?まぁ、それぐらいで買えるね。……はい。」


「ありがとうございます!」


「あ、そいつの名前教えておいてやるよ。セイヨウスグリってんだ。可愛がってやれ。」


「………はい!」



決まった、決まったよ。走って、走る。小脇に小さな鉢植えを抱えて君の元へ。街路樹をあと2本越えたところに……君の家。

ポケットから急いで携帯を取り出して通話ボタンを押す。3コール目に聞える君の声。



『も、もしもし?!』


「あのさ、あのさ!」


『う、うん?』


「誕生日おめでとう!」


『え?!ど、どしたのいきなり。』


「窓!窓!!」



テンパりすぎて何を言ってるのか自分でも訳がわからない。ただ、早く、早く君の顔が見たくて



『な、何やってんの!こんな時間になんで……。』


「はい!」



満面の笑みでセイヨウスグリを差し出すと呆れため息を吐いた君はやれやれと言うように微笑んだ。そしてありがとうと呟いて

ボクは小さな鉢植えを必死に掲げながらほくほく笑顔。そんなボクに君はふふっと笑って



『セイヨウスグリの花言葉って知ってる?』


「……ごめん。」


『謝んないでってば。[真の幸福]って言うの。たぶん、金田が私に真の幸福を運んでくるんだね。』



君のその言葉にボクは自信満々にうん!と答えてパジャマ姿の君を抱き締めた。










セイヨウスグリ
―紛れもなく君のこと―






2008.09.28
輝羅


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