*不動峰*

□今日、わたしの恋は終わりました。
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昔から大好きだった。そう、いつからか好きなのかわからないほど、自然に好きになってた。だって近すぎてわからなかったんだ、気づけなかったんだ。



「おれ、あいつが好きなんだ。」



そう告げたきみは笑いもしないで淡泊だった。指を差して、わたしを一回も見ないで。それがなんだか怖かったりした。

ずっと近くにいたのに、今はすごく遠くて手を伸ばしても届かないところにきみはいる。わたしは俯きながらうんとしか言えなかった。だってそれ以外に何が言えた?わたしじゃなくてあの子が好きだときみが言っているのに


二人で歩く帰り道がこんなにも辛いなんて初めて思ったよ。今まで楽しくて仕方なかったのにさ。何さこの重苦しい沈黙は。



『深司、告白、はするの?』


「うん、明日ね。」


『頑張れ!』


「ありがと。」


『……うん。』



偽りの頑張れ、しか言えない自分はすごく薄情者なんだと思う。だってわたしはきみが好きなんだもん。応援なんてしたくないよ……こっちを向いてほしい。


思えば、深司がわたしを見てくれなくなったのはいつからだっけ?わたしの隣にずっといてくれたけど、見てくれなくなったのは??わたしが……深司をそういう目で見初めてから、だ。じゃあ、深司は気づいててこんなこと、するのかな?

昔はあれこれ噂されたりしたけど最近はまるっきりだね。まあ、きっとみんなに仲が悪くなったように見えるんだろうなぁなんて。うん、わたしもそれは思うんだ


深司が好きなあの子はわたしとは真逆の子。清純そうで可愛らしくて……深司にお似合いだね


なんか自分で言ってて虚しくなってきたんだけど、うん。あれ、なんだか視界がぼやけてきちゃったよ……どうしよう。深司の前で泣きたくなんかない。泣いたらきっと笑ってお別れなんてできないもん。明日からはきっとわたしと深司が二人で帰ることなんてないから。深司の隣にわたしじゃないあの子がきっと一緒にいるはずだから



「着いたよ。」


『あ、うん。』


「じゃ。」


『あ……し、深司!』


「何?」


『ばいばい…ばいばい、深司。』


「………ばいばい。」



最後の、ばいばいだね。明日からはわたしたちはもう隣同士じゃないから。わたしはきみを想い続けるかも。だってきみを簡単に諦めきれるほど安い恋じゃないから

小さくなる深司を最後まで見送ることなく携帯を開いて、電話をかける。



『あ、アキラ?わたし、振られちゃった。』


「そっか。」


『でも、ちゃんと笑顔でお別れできたよ!』


「頑張ったな。」



あのね、わたし、思うの。気づくのは遅かったけど、恋した期間はすごく長かったに違いないって

もう一度深司が歩いていった方向を見てみた。もう姿も見えない。そうして、やっと涙が頬を伝った。自覚したの










今日、わたしの恋は終わりました。
でも、続く想いがまだある。


(付き合うんだって。)
(そっか。)
(大丈夫か?)
(うん。)
(無理、するなよ。)


きっともっと早くわたしがわたしの中のこの気持ちに気づいてあげてれば何か変わってたのかな?ううん。きっと変わらなかったね。だってわたしの恋は今日終わってしまったから。









おれは、知ってた。なんだか最近こいつの様子がおかしいってことに。だから、なんでかわからないけど突き放してしまった。培ってきたものすべてを捨ててしまった


最近、アキラと妙に仲良くなり始めたこいつ。よく見かけるようになって、その時のこいつはほんのり頬を赤く染めてふわりと笑っていて。だから、わかってしまった。こいつが最近様子がおかしかった理由を。きっとアキラが好きなんだって。じゃあ、おれがこいつに何かしてあげなくちゃいけない

おれから、解放しなくちゃ。

おれがそばにいるからこいつらはいつまで経っても進展できないんだ。こいつを突き放してやらなくちゃアキラのところにこいつはいけないから。


でも、こいつは喜んではくれなかった。日に日にやつれていく。どうしてなのか聞きたいけど、聞いちゃいけない気がした。

あと一押しだ…頑張らなきゃ



「おれ、あいつが好きなんだ。」



簡単に嘘を吐いた。いや、簡単ではなかった。絞りだすように紡いだ言葉たち。自然にちゃんと聞こえたか不安で不安で仕方なかった。だって気づかれたらいけない、これが嘘だって。そうしたら、こんな嘘を吐く意味がなくなってしまうから

ちらりと見たこいつの横顔は今にも泣きそうに歪んでいた。

なんで?泣きそう、なんだよ。おれが泣きたいくらいだ。おれはこんな嘘なんか吐きたくないっていうのに、お前のために吐いてるんだ。だから、お前が泣きそうな顔するなよ。やめろよ……抱き締めたくなる、いつもみたいに慰めてやりたくなるんだ



『深司、告白、はするの?』


「うん、明日ね。」


『頑張れ!』


「ありがと。」


『……うん。』



頑張れ、か。


さっきの泣きそうな顔はきっとおれが都合のいいように見た幻覚だったんだろう。もうこいつは笑顔になってる。ずっと見続けていたこの笑顔はもうアキラのものになるんだな。いや、もうなってるんだな。なんだか悔しい。



「着いたよ。」


『あ、うん。』


「じゃ。」


『あ……し、深司!』


「何?」


『ばいばい…ばいばい、深司。』


「………ばいばい。」



着くのが早い。いつもの帰り道がすごく短く感じた。

何度も背を向けたおれにこいつはばいばいと繰り返した。次はしっかり見た。泣きそうになる顔を。でも、泣きはしないのはちゃんとわかっているから、だ。おれとお前の最後のばいばいだって。


遠くで聞こえた。アキラって名前を呼ぶ声。それだけを聞いてふっと笑うおれ。でも、頬に流れる涙



「おか、しいっ、な。」



あいつとアキラが上手くいけばおれはいいんじゃないか。満足だろ?だって目的を果たせたんだ。涙なんか流す必要なんてないはず。あいつが幸せなら、そう。


おれは、知ってた。


おれがあいつを好きだって。アキラなんかに渡したくない、独り占めしていたい、おれだけに笑っていてほしい。おれが……お前を笑顔にし続けたいって。だから、おれは逃げたんだって。それはアキラにしかできないってわかったから

もう一生伝わることのない想いをそっと口にしてただ涙を流す帰り道。










今日、おれの恋に終わりを告げる。
好きだ、なんて言えなかった


(お前もばかだな、深司。)
(橘さん……。)
(お前はそれで幸せなのか?)
(もちろん…幸せですよ。)
(……そうか。)


またねがないって結構寂しいんだななんて、初めて思った。それはきっとお前と離れて初めてわかったことなんだ。次の恋を見つけなくちゃな。いや、でももうお前以外を好きになれないかもしれない



すれ違うふたりの恋。
お互いを想い合って決
断したものは、儚く悲
しい確かな愛のかたち






切ないのを優鐘にリクエストされて書いてみたらかなり悲恋になってしまった。きっとこういう愛のかたちもあるんだなと考えた作品でした!






 

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