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□金曜日
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その人は向日葵のように明るく可愛らしく凛とした人だったらしい。跡部さんたちが見たのはその人が笑って帰っていく後ろ姿。その後、すぐ……だもんなぁ。きっと一番に後悔したのはあの人たちだろう。おれが同じ立場ならきっとそうだったはずだから。なんであの時って思うはず

おい、なんか思い出したか?ん?なんで返事しねぇんだよ。おい、聞いてんのか?お、おい!お前おれを無視してんのか?!聞こえてんだろ、返事しろよ!


何度話し掛けてもこいつは返事をしてくれなかった。なんで、どうしてと考えるけどわけがわからない。どうしようもなくて、おい!と繰り返すけど返答は全く返ってこなかった。無視なんてこいつができるわけないのを知ってる。知ってるけど、なんだかそう思いたくて仕方ない自分がいるんだ。そして、なんでか返事をしてほしくないなんて思う自分もいた



「さあ、もう帰れよ。おれが知ってることは昨日全部話したぜ。毎日来られても迷惑なんだ。」


「いや、ちょ、待っ!」


替わって。


「お前何言って……!」


お願い、赤也くん。


「ちっ。」



ふわりともやもやと嫌な感じを残したままおれは奥へと意識が入っていくのを感じた。その中で何回も何回もごめんねと謝るお前。泣きながら、何回も何回も……やっぱり泣き虫だななんて呟いて目をゆっくり閉じた。



「おい!大丈夫か?」


『はい。』


「どうした?」


『後悔しないでください。それは跡部さんたちのせいじゃないんスから。』


「何を……。」


『おれは、おれは……きっとその人がそう思うはずだから。』


「あ、おい!」



赤也くん。私、全部思い出したよ。頭の中をあの日の走馬灯が駆け巡ってすべてを思い出したの。私が、私が……その高校生だって。思い出したんだよ、あの日私は事故にあったんだって。

走り去る私を制止する跡部を無視して走り続ける。伝えたい。彼らにちゃんと今の私の気持ちを。私が大好きなきみたちへ。泣かないように、自分を責めないようにちゃんと伝えに行きたいんだけど、いいかな?赤也くん。



お前の好きなようにしろよ。


『ありがとうございます。』


あの、さ。


『はい?』


敬語、やめろよ。


『………うん。』



ふわりと赤也くんが笑った気がした。それだけで胸がぽっと暖かくなって嬉しくなっちゃった!

次はやっぱり忍足とかかな。この時間授業中じゃなかった、け?あ、でも今日は職員会議の日だから大丈夫かな!毎週金曜はそのはずだから。よーし、じゃあ、いっちょ、行きますか!!ね、赤也くん!!とかって言ってみたらおれに聞くなよって言われた。うん、なんだかいつも通りで嬉しいなんて思っちゃう自分。最近元気なかったみたいだから安心したっ!


ダッシュでレギュラー陣を探した。そこで見つけたのは伊達眼鏡のあの方とおかっぱみそっ子くん。走り寄る私に二人はなんだかきょとん顔になった。よく見ると二人の目は真っ赤。あぁ、なんかごめん。本当に、ごめん。



「な、お、お前…切原?!」


『ねぇ、あの人は元気っスよ。』


「は……?」


「なんや?」


『いつも笑ってるよ。みんなのこと大好きだから!忘れたりなんかしないんだから、だから…忘れないで?今まで、ありがとう……なーんちゃって!じゃあな!!』


今のはおれに全然似てねぇだろ!


『ごめんなさい!』



また走って、走る。次はジローくんだね!なんて言った瞬間に見つけた。すぐ見つかったジローくんはやっぱり寝てた。なんだか起こすのは忍びないほどのいい寝顔。だから、ポケットからメモ帳とペンを取り出すとそれに私の想いを書いて置いておいた。それでいいのか?って赤也くんに言われたけどたぶんそれが一番だよ。

あのね、跡部や忍足、がっくんにありがとうって伝えたらすごく体が軽くなったの。今も、そう。すごく、すごく軽くなったんだよ。

次は宍戸だね。宍戸はいつも私を励ましてくれてた。泣き虫な私のそばでずっとずっと。たくさん勇気づけてくれたよね?すごく感謝してる。照れた顔が可愛くて、一番の頑張り屋さんでちょっと天然で。屋上が一番落ち着くなんて言ってたよね……確か。

と、まあ、来ちゃったわけなんですが、まさか本当にいるとは。どーしよ、どうしましょ!



「あ?てめぇこんなとこで何してんだよ。」


『あ……まぁ。』


変なこと言うなよ?


『うん。』


「あ?」


『……ありがとう。今まで、本当に。』


「あ、おい、ちょっと待て!」



宍戸にはありがとう。しか言えなかった。ありがとう。しか言葉が見つからなかった。ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう……本当にありがとう。大好きだよ、今でも。

気づいたよ。その涙の跡に。気づいてしまったの、ごめんなさい、本当に、本当に。


日吉に会った。日吉も相変わらずのクールな顔してるのに陰りが増したね、なんて。体は赤也くんだから気づかれることはないと思う。でも、伝える想いは私のものだから。本物、だから。いつか一緒に話したよね。いろんな事についてさ。日吉のひねくれた考え方がなんだかすごく好きだった。最初はあんまり気に入らなかったんだけどね、でも。



「お前……。」


『近づけないくらいがいいんだって言ってたよな。』


「は……?」


『それは、なんだか寂しいよな。でも、なんだろうな。その考え方嫌いじゃないぜ。』


「おまっ………!」


なんだよ?今のは。



日吉のひねくれた性格まんまだよ。うん、そう。だけど、本当は素直なんだよね。可愛くて可愛くて弟みたいに愛してたよ。

後は………



「うっ、く、せん、ぱ、い。」



やっぱりきみは泣いてる。机にうずくまって、泣いているきみ。私が一番心配してたのはきみなんだよ?知らないでしょ。ね。



『ちょ、た……。』


「……?!」


『泣かない、で。』


「え、あ、え?」


『笑って、ね?』


「き、りは、ら?」


『笑ってよ、チョタ。』


「せん、ぱい……先輩!」


『わっ。』



抱きしめられてる。すごい、すごい……なんていうか周りから見たらホモってるよね。一週間ぶりだけど、また身長伸びたんじゃない?うん、きっとそうだね。それに暖かい…な。私はもうこの世にいないんだけど、さ。すごい暖かいよ。もう、泣けてきたよ。ばかじゃん、私ってば。笑ってよ、なんて言っておきながら泣くなんて矛盾しすぎだよね?










ありがとう。の金曜日
ふわり、ふわり


(あ……。)
(せ、んぱい?)
(消えた。)
(き、りはら?)


なあ、なんでだよ。おれを一人にするなよ。頼むから、お願いだから一人にするんじゃねぇよ。おれは、気づいたんだ。なあ、涙が止まらねぇよあほ。

ありがとう。本当にありがとう。大好きだよ、みんな。抱えきれないほどのたくさんの愛をありがとう。赤也くん、私を探してくれてありがとう。私、私………きみが好き、だよ。







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