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□月曜日
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私の体はたぶん、骨になっちゃってるって赤也くんが言ってた。うん、私もそう思う。だから、探すのは難しくない?って聞いてみたら知らんって言われた。え、なんか見放された?って思ったら、そうでもなかったみたい。今からそういうのに詳しそうな先輩に聞きに行くってさ。だから、私は一旦内側に引っ込めって言われたんだけど……どうしたらいいんでしょうか。



なんか掛け声とか必要なんじゃね?


『掛け声とかってなんですか。』


おれに聞くなよ。



いやいや、だってそんな事言われても私にどうしろと?掛け声ってなんかヒーローものが変身する時の?え、なんか嫌だなそれ。恥ずかしいもん。そして赤也くんは投げ遣りだしさ。いいからやってみろ!って……ひどい。

えーっと…掛け声、掛け声、掛け声……あ!



『合体!』


ばかだろ!合体してどうすんだよ!!


『痛っ!』



いや、掛け声って言ったらそれしか思い浮かばなかったんです!そう言うとお前は……って呆れられた。そして、叩かれた。まぁ、他の人から見れば自分で自分を叩いて痛いとか言ってる変な人でしかないと思う。それにさっきから周りの人の視線がちくちくと突き刺さって痛い。まぁ、しょうがないと思います。私は赤也くんと話してるつもりだけど周りから見れば独り言でしかないから。

でも、どうやって変わればいいんだろうか……?

ぎゅうっと目を強く瞑った。もうなんで私は役立たずなんだろう。赤也くんに迷惑掛けてばっかりで何もできやしない。赤也くんは私のため…じゃなかった。自分のためとはいえ私を探してくれるって言ってくれたのに。その第一歩のためにも先輩に聞かなきゃいけないのに……神様、神様、どうか私に力を貸してください。


赤也くんと入れ替わって!そう、強く願った瞬間に体がふわっと浮いた気がした。そして、なんだか変な檻?らしきものにいつのまにか入っている私。



「やればできるじゃん。」


わあ!できた!できた!!


「ん、はいはい。じゃあ、いっちょ、聞きに行くか。」


はいっ!



そう言って元気良く返事をするこいつについ微笑するオレ。なんだかもう慣れたって感じだ。昨日のことなんだけど……まぁ、育った環境のせいもあるけど。最初はさすがに驚いたし、腹が立ったけど、こいつがなんでかすごく可哀想に見えて放っておけなかった。記憶もないって、どんなだ、とか思ったけど。


悪さ、するようなやつじゃなさそうだし


おれもこいつが早く成仏してくんねぇと困るしな。今は大事な時期だ。全国大会だって控えてるわけだし、早くこの厄介事を片付けて前の通りテニス漬けの毎日を送りたい。まあ、たまにはサボったりするけど。これも少しは暇つぶしになるかもしれねぇけどさ。ま、とりあえず今は聞きに行くのが先だよな。やっぱ、こういうことは柳先輩か部長に聞くのが一番だよな。真田副部長に言ったらふざけてるのかって一蹴されそうだし


そうと決まれば、と部室へとダッシュで向かった。今日はミーティングだけって聞いてたし、すぐ終わるだろうからミーティングが終わったらすぐ聞こう。あ、間違っても丸井先輩や仁王先輩に聞かれないようにしなきゃな

部室の扉を開けるとやっぱりミーティングしてた。遅れて席に着くと真田副部長に一喝入れられた。つば飛んできた、汚ぇ。ミーティングは予想通りすぐ終わって、部室にはおれと立海の三強しかいなくなった


き、緊張してきたな……覚悟を決めて手に汗を握り勢い良く口を開いた。



「あ、あの!柳先輩!!」


「ん?どうした。」


「あの、えーっと……幽霊ってやっぱ死んだやつが必ずしもなるんスか?」


「なんでそんな事を聞く。」



聞かれると思った!おいおいなんて答えればいいんだよ!!へたなことを言うと柳先輩はとことん問い詰めてくるからな。何かいい回答はないかと探していると、あいつが頭の中でオレに話し掛けてきた。おれが焦っているのがわかっているらしく、なぜかこいつは落ち着いていた。



「えーっと…最近テレビで見て、なんだか興味湧いちゃって。」


「赤也、お前がテニス関連以外で興味が湧くなんて珍しいな。」


「い、いいじゃないっスか!」


「ふっ、そうだな。さっきの質問の答えはノーだな。」


「え?」


「そうだね。亡くなった人が必ずしも幽霊だなんてことはないんだよ?幽体離脱なんてあるからね。」


「精市の言う通りだ。」


『本当ですか?!』


おい、お前!



あ、あれ?いつの間にか、入れ替わってる……え。い、今私、赤也くんの体でしゃべっちゃった?あ、やば、三人の目付きが一気に変わったんですが。怖い、怖い、般若だよ、般若。一番怖いのは笑顔で近寄ってくる…あ、部長さんですか。



「きみ……赤也じゃないね?」


「昨日もあったな、この違和感。」


「お前は、赤也じゃないのか?」


『え、あ、う……。』


もう、いい。この人たちに嘘を吐くのは無理だ。全部話せ。


『あ、赤也くんがそう言うなら……あ、あの、し、信じてもらえないかもしれないんですが。』



そうして私は、いや、私たちは全部包み隠さずこの人たちに話した。信じがたいなと一言もらされて、途中で話を聞いてくれなくなった時にちょっとだけ胸が、痛く、なった。でも、部長さんだけは静かに私の話を最後まで聞いてくれて、途中で切って捨てないでくれた。なんだかそれだけで私は十分だった、の。

赤也くんが……聞こえるはずないのに、頭の中でずっと信じてやってくださいって言い続けてくれてるから。その言葉がとても嬉しくて嬉しくて泣きたくなった。



『信じて、くだ、さいっ。』


「と、言われてもだな……。」


「精市は、どうだ。」


「信じてあげるよ。」


「なっ。」


「だって、泣いちゃってるし。それにいい子そうだし?」


『あ、ありが、とうござい、ます!』



部長さんが信じると言うと周りの二人も渋々だけど信じてくれた。そして、なんとこの三人も協力してくれるってことになった。嬉しくて嬉しくてやっぱり泣いた私。赤也くんが泣くな!って怒ってるけどなんだか声は優しくて更に泣く私にみんなたじたじ。三人……いや、四人に頭を撫でられた。みんなの手はすごく、すごく暖かかった










手の暖かさ、優しさを知った月曜日
心がぽってなったよ


(あ、寝ちゃった。)
(疲れたんだろ。)
(わっ、急に入れ替わるな!)
(あ、赤也。)
(ぶ、部長、こ、怖いっス。)


本当はすごく怖かったんだけど、みんなの優しさと温もりに触れてだんだん消えていったんだよ。ありがとうってそっと囁いたらなんだか体が少しだけぽって暖かくなって軽くなった気がしたんだ。

こいつの不安が、恐怖が直接伝わってくるからどうしても信じてほしいって思わずにはいられなかったんだよ。







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