日記SS

□恭矢
1ページ/1ページ

帰ってきて

年末年始は各々実家に帰る事となり、矢坂は自室で本を読んでいた。
母とは本屋で会う為、久しぶりという感情は少ない。父にはそう感じるものの、家族そろって会いたい気持ちが薄いので、久しぶりの顔合わせでもテンションが上がる事はない。
何度も読んだ本でも面白いものは面白い。初見の衝撃はないが、うまく構成されたストーリーにいつか自分もこのような話を書けるようになりたいと、矢坂は最後のページを読み終えると本を閉じた。
帰ってきて早数日。三が日までいる段取りをしているが、飽きてきてしまった。
もちろん仕事道具は持ってきているから、手持ち無沙汰になれば仕事をするつもりでいる。
しかし『正月はゆっくり休め』と言う声が思い出されたせいで、したいとは思えない。
「どうしたものかな」
生まれ育った実家は安心できる場所だ。義実家に行く嫁とは違い楽な気持ちでいられる。
けれど恭成と暮らすようになってから、我が家の方が実家よりももっと息を抜けるようになっている。
恋愛に興味がなかった当時の自分が聞いたらきっと驚いてしまう。
ここは恭成を感じられるものが一つもない。
部屋の香りや服の匂い。食べ慣れた母の手料理であっても、恭成の作る食事が恋しい。
「──帰るか」
恭成の帰りが週末なのは覚えている。でも、これ以上実家に居ても恭成を感じられないのなら自宅に帰った方がマシだ。
大した荷物はなくて仕事道具を持つと、一階にいる両親に「帰る」と声をかけた。
二人は驚いた反応をみせたものの「また帰っておいで」と、快く見送ってくれた。
帰省ラッシュには巻き込まれずに済んで、無事に帰宅する事ができた。
母から持たせてもらった手料理を冷蔵庫に放り込み、ソファーに横たわる。
微かに漂うタバコの香り。二人が好んだ洗濯洗剤の優しい匂い。コーヒーは淹れてないのに、何故か鼻をくすぐられた。
ふと、視界に映ったのはソファー用の毛布で、それを体に巻き付けた。
「恭成さんの匂いがする……」
自分の匂いはわからない。けれど恭成の香りはわかる。
落ち着く匂いにうとうとすると瞼が重くなってきた。
──安心できる場所なんて、実家だけだと思っていた。
それが恭成と暮らすようになり、実家以上に我が家が落ち着ける場所になっている。
「早く帰ってきてほしいものだな」
帰ってくるまであと二日。少し寂しいものの、恭成の香りが強い彼の部屋でしばらく寝させてもらおうと矢坂は瞼を閉じたのだった。


おしまい。

その一時間後、恭成も寂しくなって帰ってきます(笑)
恭成が主に使っていた毛布なので、恋人が俺の毛布に包まって寝てる、めちゃ可愛い! と、ちゅっちゅします。
ヘタレなので寝てる相手に無理矢理はしないのです。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ