日記SS

□望順
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「実家に帰ります」という書置きに、望はホワイトボードに書かれた文字を消した。
冷蔵庫からお茶を取り出し、スマホを操作する。
夕飯の確認をすれば、家族ととるらしい。了承の返事をして、何を食べようか考え始めた。
──初めてこの書置きを見た時、すぐさま順敬へ鬼のように電話をかけた。
心当たりがまったくなくて、なにが嫌だったのかと電話が繋がるまで本当に怖くてたまらなかった。
事情を聞けば、ストレスが原因だ。
因みに望のせいではない。仕事のストレスが溜まりすぎ、癒しを求めて実家にいる愛猫と愛犬を「吸い」にいったらしい。
「吸う」という意味はよくわからないが、数時間後「吸って」帰って来た順敬はとても上機嫌だった。
数か月に一度のイベントになりつつあり、もう書置きに驚くことはない。
動物が好きなのは仕事柄わかっている。動物を看るのはやはり仕事であって、癒しにはならないようだ。
確か実家にネコと犬が数匹いたはず。名前を思い出していれば、順敬から連絡が入ってきた。
真っ白い子猫は新しい家族のようで、保健所から引き取ったらしい。
その子の名前に、望は苦笑いを浮かべた。
「何で『望』にするんだよ」
今まで食べ物で名前を揃えてなかったか? と思いつつ文面に目を通せば、兄の海士が付けたようだ。
明らかに意図的な名づけに、海士は何を考えているのだろう。
寧ろ望が八条家に足を運べば望と『望』がいる空間になってしまう。
……もしかして、からかう為にそう名付けたのだろうか……。
しかし気になるのは、順敬が帰って来た時に『望』の話を望が聞くというシチュエーションについてだ。
自分と同名のネコが可愛いと聞くのを想像すると、何とも言えない気持ちになる。
望は強面で可愛いという分類ではない。望ではないにしろ、同名で可愛い可愛いと言われると本当に複雑だ。
だが決まってしまったものはしょうがない。とりあえず夕飯を食べようと、近くのファストフード店に足を運んだのだった。

おしまい。

「実家に帰ります」という書置きの話と猫吸いを書きたくてつい……(笑)
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