日記SS

□恭矢
1ページ/1ページ

ラッキースケベな話

よもやこういう状況下になるとは誰が思っただろう。
矢坂の両足を開かせ、その股間に顔を埋めた恭成は何ともいえない気持ちになった。
「……ラッキースケベですか?」
「お前の口からそれを聞きたくなかったわ……」
打ち付けた膝が痛いものの、いい加減この状態から起き上がらなければ。
足から手を放し、恭成は座り込む。矢坂は開かれた足を閉じ、近くに落ちているバスタオルに手を伸ばした。
──今日は強い雨が降っていた。
昇降口から駐車場までの短い距離にも関わらず、足元は水たまりだらけで歩くだけで靴の中に水がしみ込んだ。
幸い足元の被害だけで、スーツやスラックスはタオルで拭えばいくらかマシになった。
急いで帰宅し、玄関で靴下を脱ごうとしたら、この時間帯には珍しく矢坂が風呂場から出てきたところだった。
下着をつけているものの、ちゃんと拭っておらず髪も体も雫が滴っている。
「お帰りなさい」
「ただいま。こんな時間に珍しいな」
「出かけたら雨に降られてしまったんです」
「あぁ、なるほど……って、うぉ!?」
立ったまま靴下を脱ごうとしたらバランスを崩してしまい、前のめり倒れこんだ。
恭成にタオルを渡そうとしていた矢坂が近づいて来ていた為、冒頭の状況になってしまったのだった。
一体誰が恋人の股間に顔を埋めるように倒れこむと思う。
寧ろ両足を掴んで開かせてしまったのは、夜の行為を思わせるもので気恥ずかしい。
矢坂は何事もなかったかのようにタオルを渡してくれて、座ったまま恭成の様子をじっと見ていた。
「……わざとじゃねぇからな」
「わかってますよ。恭成さんが器用じゃないのは知っています」
「マジでわりぃ」
「こちらとしてはネタができたのでいい経験でした」
「そりゃ良かったな」
恥ずかしさに顔が見れずにいると、矢坂の動く気配を感じた。
着替えに動くかと思えば、足音は一歩近づく音。
顔を覗き込まれ、ドキリとする。
「恭成さんもそんな顔をするんですね」
そう言って笑った様子に、追い打ちをかける様な感情が込みあがり、恭成はうめき声をあげる事しかできなかった。

おしまい。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ