日記SS

□SPY小話
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時間軸。夏維がSKMに暴行を受け、SPYへ行けなくなった頃。



嫌われて当然な事をしていたんだ。
この状況は、正常に戻ったはずだったのに……。
アイツを最後に乱暴したのは、半月前。前戯も愛撫もなく、必要な場所だけを触って犯した。いつもと変わらない行為。
なのに出て行こうとする背中に焦燥感を覚え、引き止めるようにキスをした。
女ならまだしも、突っ込める穴の男にそんな事をした自分に酷く驚かされた。
そしてアイツは来なくなった。月日はそうでも、回数でいえばたった二回会えてない。
来なくなった日々が戻っただけ。いつものように観戦し、指定されればボコボコに潰すだけ。暴れ足りなければ幹部に相手をしてもらう。
そのはずが、『冬大』と呼ぶ声が、あの顔が脳裏でチラつく。
嫌がり抵抗するのを捩じ伏せ、自分の欲を満たす。それだけの相手だったはずだ。
けれど、今まで相手をしてきた女達より、アイツは俺の中で色濃く残っている。
初めて抱いた男というのもあるかもしれない。だが、自らキスをしたいと思ったのも、無理矢理組み敷きたいと思ったのも、アイツが初めてのように思えてきた。
──込み上がる気持ちが何なのかがわからず、ゴミ箱を蹴飛ばす。
倉庫内を響かせる音に、恭成の小言が聞こえないフリをして二階へと逃げる。
ベッドに身を沈め、渦巻く感情をどうにかしたくてまぶたを伏せた。
誰かと殴り合うか、それとも久しぶりに女を抱くか……。どうすれば、この苛立ちは消えてくれるんだろうか。
すると、女を組み敷く自分の姿が瞼に映った。
揺れる胸、白い肌、耳障りな高い嬌声。慣れた光景のはずが、女の顔は全く見れなかった。
体さえあればいい。顔なんて二の次。そう思ってヤってきたからこそ、イメージがわかないのかもしれない。
せめて俺好みの顔を想像しようとすれば、女の体は徐々に変化を見せ始める。
揺れていた胸は消え、体つきは貧相なものへ変わり、泣きじゃくりながら睨めつける顔は……。
大きな音を立てて起き上がり、俺はバクバクと煩く響く胸を押さえる。
「なんで、アイツが……」
正常に戻った日常。女達のように俺の中から消えていくだけの存在。
だが、現れた。
なぜだ。どうして俺の中に残ってる。アイツは来なくなった。その事実で十分なはずだろう。
なのに、それを認めたくない。アイツはまたここへ来る。それが当然だと思ってしまっていた。
「夏維」
夏の日差しのようにじりじりと焦がす眼差し。
アイツの前では呼んだ事のない名前。
……もしも、アイツの名前を呼べば、アイツはまた来るんだろうか。
また抱けるのだろうか。
性欲か、それとも玩具を失った喪失感か、どちらかはわからない。
けれどアイツ…夏維の存在は、確実に俺の中に何かを生ませた。


小話終了。

好きという感情がよくわかってない駄目男(笑)
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