ずっとあなたの側にいれるなら
□1章
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炭治郎の顔を見てある程度、なにが起きたのか検討はついてしまった。
さっきの血は誰の血だったのか、ここでなにが起きたのかを察した私は炭治郎になんて声をかけたらいいのわからなくなり口ごもる。
「千歳……、ごめん…」
炭治郎は涙を流しながら私に謝ったのだ。
なんで…謝るの…。
誰よりも辛いのは炭治郎自身なのに、この期に及んで炭治郎はなんで私に謝るの。
炭治郎の顔を見ていると意味もなく涙が頬を流れる。
これが釣られ涙というものなのだろうか。
炭治郎の顔は何かを失った顔だった、けどその顔は何かを決意した顔でもあった。
炭治郎はゆっくり口を開く。
「俺、やらないといけない事ができたんだ」
「……」
「すごく長い旅になると思う。
だから千歳とはもう会えなくなるかもしれない…。
それでも…」
「……」
「…ごめん……」
そう言って炭治郎は私に背を向けて走り去って行った。
2年経った今でも、とても後悔している。
なんであの時、私は炭治郎になにも声をかけてあげれなかったのだろう。
去っていく彼を行かないでと呼び止めたかった。
走って追いかけたかったのに、足がすくみ頭の中が真っ白になったのだ。
後悔ばかり残る。
今思い返しても胸が痛くなる。
炭治郎。
もう一度あなたに会えるなら私は謝りたい。
あなたに何もできなかった私をどうか許してほしい。
「千歳ちゃん、今日も上の空だね」
お客様の声でハッと我に返る。
そうだ、今は接待をしていたのだった。
「ごめんなさい…」
「いやいやあ…、可愛いから許すよ」
そう言ってお客様は私の膝に手を乗せた。
「千歳ちゃん、他の遊女みたいにそろそろ体でも商売したらどうなんだい。
千歳ちゃんならきっとすぐ菩薩になれるさ」
「……」
体を売って商売なんて嫌だ。
そんな事したら、私にはもう何も残らないと思う。
ただでさえ、ここが吉原だと知っていれば絶対に来なかったのに……。
炭治郎が私の前から消えて一ヶ月ぐらいが経った頃だった。
一緒に住んでいたおばあちゃんが急に倒れたのだ。
あれからおばあちゃんはずっと寝たきりのままになってしまい、なんとか元気になってもらいたい一心で私は人一倍働いた。
私のお母さんやお父さんは短命で、すでに他界してしまっていたので私しかおばあちゃんを養っていくことができなかった。
それでもおばあちゃんはなかなか元気にならなかった。
むしろ状態は悪化していったのだ。
そして数カ月しておばあちゃんは眠るように息を引き取った。
大切だった人はみんな私の前から居なくなった。
そう思えば思うほど私の心は病んでいた。
誰でもいいから誰かを欲していた。
何も希望がない日々をおくるにつれて、私は自暴自棄になっていったのだ。
そんな私を救ってくれたのは、ここ吉原遊廓にある京極屋のおかみさんだった。
今思えば、いい稼ぎ頭になると思って私を助けてくれたのだろうけれど、その時の私にとっておかみさんの差し伸べられた手はとても暖かく感じたのだ。
いく先が吉原だと知らずにその手に引かれ、ここへとやってきた。
最初はどうにかしてここから逃げようと思った。
けど、おかみさんの一言で私はここで働くと決めたのだ。
「あんたが吉原で有名な花魁になりゃ、その炭治郎って子の耳に入るかもしれないよ。
だから必死に客に媚を売って高い位を目指すんだね」
そう言われて、私は今もここで遊女として生活している。
しかし私の心は今にもはち切れそうだった。
好きでもない男性の接待をして、嫌なことも沢山された。
酒に酔った男性に暴力を受けても遊女だからという理由でお客様には逆らえないのだ。
でも、いつか炭治郎に会えるなら……そう思えば私は強くなれた。
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