私もあなたも片想い
□9章
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キャンプ場行きのバスは停留所に止まると皆を乗せては山奥へと向かった。
皆、私の足を見るなり驚いてはいたけれど雪くんがうまく説明してくれたおかげで疑われずに済んだ。
神木さんや志摩さん、勝呂さんも乗ってきて静かだったバスは皆の喋り声で騒がしくなる。
私はボーッと窓の外を見つめた。
あれからしえみさんは雪くんにお願いされてやむを得なく他言無用を承諾したけど、しえみさん自身は納得していないだろう。
しえみさんチラチラ私のことを見てくる。
たぶん雪くんのことが心配なのだろう。
ブーっと携帯が鳴った。
リュックの中から携帯を取り出すと、悟からメールが届いていた。
『この前はいきなりキスしてごめんなさい。
今度、空いている日があったら教えてもらえませか。
一度ゆっくり名無しと話がしたいです』
私は悟のメールを読み、返信文をうった。
『今日から祓魔塾の皆とキャンプだから3日後くらいなら空いてるよ』
送信すると雪くんが話しかけてきた。
「悟さんから?」
「うん」
「そっか」
悟が私の足を見たらどう思うのだろうか。
悟は雪くんと燐には関わらないほうがいいと言っていたけど、私は雪くんの側に居たい。
でも、たぶんそれは無理だろう。
いつか私は悪魔に完全に憑依されるのだから……。
「着いたみたいだね」
雪くんの言葉通り、バスは止まった。
「名無し、ちゃんと捕まっててね」
そう言って雪くんは私をおんぶしてくれた。
「ありがとう」
「ううん、気にしないで」
バスから降りると目の前には長い階段があった。
「おい雪男、まさかこれ登るのかよ」
横に居た燐が恐る恐る聞いた。
「うん、この先に今日宿泊する予定のコテージがあるからね」
「嘘でしょ…」
神木さん雪くんの言葉を聞いて幻滅していた。
私は雪くんにおんぶされているから、雪くんの負担は2倍…いやそれ以上だ。
なんだか申し訳なくなる。
「雪くん、ごめんなさい…重たくない?」
「うん、大丈夫だよ」
燐を先頭に皆階段を登りはじめた。
体力が鬼のようにある燐はだるいと言いながらもスタスタ登っていった。
「若先生、よかったら俺が名無しちゃんをおんぶしましょうか?」
志摩さんが心配した様子できいてきた。
けれど雪くんは「ありがとうございます、でも大丈夫です」と言って断ると早めに階段を登る。
階段を登り終えると見晴らしのいいキャンプ場へと着いた。
「雪くん…、大丈夫?」
「うん」
雪くんは少し息を切らしていた。
雪くんだけではなく周りの皆も真夏の暑い中、長い階段を登り終え疲れきっていた。
「もう無理だわ……」
そう言って神木さんは地面に座った。
「俺ももう…、立てへんわ…」
勝呂さんや他の人もぐったりしていたが、燐だけはキャンプ場を見て子供のように目を光らせていた。
「兄さんだけだね、疲れてないのは」
「…みたいだね」
雪くんは元気そうにはしゃぐ燐を見て呆れている様子だった。
「それでは皆さん、決まっている2人2組のグループに別れて各自コテージで休憩してください」
雪くんは皆にそう伝えると、皆は言われた通り各自コテージへと入って行った。
私と雪くん、燐は志摩さんと、しえみさんは神木さんと、勝呂さんは子猫丸さんとペアみたいだ。
どうやらねむさんはキャンプには参加しなかったみたいだ。
私と雪くんもコテージ入り荷物を置いた。
私は驚いた。
コテージの内装は広くて綺麗だけれど、二人用のベッドがひとつしか無かったのだ。
「雪くん、ベッドひとつしかないよ…」
「ここのキャンプ場のコテージは全部こうみたいだね…。
僕は気にならないけど、名無しは嫌だ?」
「…えっと…」
嫌というよりかは、恥ずかしいのだけれど……。
「それじゃあ僕はソファで寝るよ」
「あ…。
私は大丈夫だよ、一緒に寝よう?」
って、一緒に寝ようって…私なに言ってるの。
自分で言った言葉にハッとして顔を赤くした。
これじゃあまるで雪くんを誘っているみたいじゃないか……。
雪くんをチラッと見るとクスクス笑っていた。
「ご…ごめんなさい、そういう意味じゃなくて…」
「ふふっ、わかってるよ」
「…ならいいけど、なんで笑ったの…?」
「ごめん。
一緒に寝ようとか、名無しが可愛く見えてつい」
「なっ…」
雪くんに可愛いと言われるととても嬉しいけれど口元が緩んでしまう。
ていうか、またそんな事言って雪くんは私をどうしたいのだろうか。
可愛いとかフラれた相手に言われるのは少し違和感を感じる。
「汗かいたし、早いけどお風呂入ってくるね。
名無しも入る?
「私は汗かいてないから大丈夫だよ」
「そっか」
そう言うと雪くんはお風呂に行った。
私自身、少しは汗をかいていたけどまあ…足が動かなくなってから3日。
毎日雪くんとお風呂に入っているけど、やっぱり抵抗はあるので断った。
雪くんがお風呂に行ったあと、ぼーっと窓の外を見つめると森が広がっていた。
私はキャンプに来ているんだと実感が湧いた。
真夏の森は青々としていて涼しそうだった。