私もあなたも片想い
□8章
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それから雪くんは朝食を一番に食べ終え、仕事があると言って男子寮をあとにした。
二人、食堂に残った私と燐は何も話すこともなく沈黙が流れる。
燐を横目に見るとなんだか様子がおかしい。
不思議に思った私は思わず質問した。
「燐…、なにかあったの?」
燐は恥ずかしそうに答える。
「お、おまえ…覚えてないのか?」
「え…なにが?」
「なっ、なんでもねーよ!」
燐はそう言うと気を紛らすように食べ終わった食器を片付け始めた。
「なあ、名無し。
雪男から聞いたけど、足動かなくなったんだよな…」
燐は食器を片付けながら私に話題をふった。
「うん…」
私が答えると燐は黙り込む。
また先ほどのように沈黙が流れた。
「ごめん!」
「…え?」
燐は急に私に頭を下げて謝った。
「どうしたの?」
「昨日はごめん、名無しのこと吹っ飛ばして。
すげー迷惑かけて……本当にごめん」
…そっか。
昨日は燐と勝呂さんの喧嘩を止めたり、悟に告白されたり、私が雪くんに告白したりとか、色々な事があったんだよね。
「私はぜんぜん平気だよ。
それより燐は大丈夫だったの?」
「あー。
俺はほら、悪魔の血が流れてるから治るの早いんだよ」
「……」
悪魔……か。
私は悪魔に憑依されてるけど、この足は一向に治らない。
燐みたいに悪魔の血が私にも流れていたらこの足は完治して、また祓魔師という夢を見ることができるんだろうか。
また雪くんや皆を守る夢を見ることができるんだろうか。
「あ…」
ボケーっと昨日のことを思い出していると、燐はなにかに気が付いたようで嬉しそうにしていた。
「どうしたの?」
「明後日みんなとキャンプだろ?
楽しみだな!」
燐って本当、子供みたいで可愛い。
真面目な雪くんとは正反対な性格だけど、雪くんも雪くんで可愛いところもある。
そういえば昨日、勝呂さんとあんなに喧嘩していたのにキャンプが楽しいって思えるって事は燐は勝呂さんと仲直りしたのだろうか。
「燐、勝呂さんとはどうなったの…?」
「……」
黙り込む燐を見て、二人がまだ仲直りしていない事を察した。
「知らねーよ、あんな奴仲間でもなんでもねえ」
「……」
あの時、勝呂さんは燐を悪魔だと言っていた。
確かに燐は悪魔の血を受け継いではいるけれど、それ以前に燐は優しくて人思いな性格だから、悪魔だろうがなんだろうが誰だって怒る時は怖いのだ。
それを勝呂さんにもわかってほしい。
私自身、当事者じゃないから喧嘩した原因はわからないけど。
「なあ…。
名無しもキャンプ来るんだよな?」
「…いけるかな、足動かないし…」
この足でキャンプに行くなんて無理だろう。
車椅子は山道じゃ全く使い物にならないし、皆に迷惑をかけるだけだ。
行きたいのはやまやまだけど…。
「足が動かないなら俺が名無しをおんぶすりゃ済む話しだろ」
「え…、でも…」
「足の事なんか忘れて楽しもうぜ!」
「……」
燐は優しい。
でも、もしまた何かあったら…。
昨日だってお風呂から上がったら熱を出して倒れていたって雪くんは言ってたし、なにより私の中には悪魔が居るのだ…。
雪くんや燐、祓魔塾の皆に迷惑かけることになる。
「私、いいよ…。
こんな足じゃ楽しめないしね」
笑いながら適当な理由をつけた。
「……そんな行きたそうな顔して行かないって言われてもな…」
「えっ、私…そんな顔してないよ」
「よし、名無しも行くって皆に話しとくからな」
そんなこんなで私は変わらず、キャンプに参加することになった。