私もあなたも片想い

□9章
1ページ/2ページ




キャンプ当日。


朝から私たちは早起きをしてキャンプ場行きのバスへと乗り込んだ。


バスの中に入ると、しえみさんが先に乗っていた。


しえみさんはポニーテールをして前髪を髪留めでとめていて、いつもの雰囲気とは少し違うしえみさんに可愛いと思った。



私と雪くんはしえみさんが座っている横の席に座り、燐はしえみさんの隣に座った。



「よお、しえみ」



燐は元気よく挨拶した。

けれど、しえみさんは雪くんに抱きかかえられている私を目を丸くして凝視する。



「しえみさん、おはよう」



雪くんも挨拶した。私もつられて挨拶をする。



「おはよう」



三人に挨拶されているにも関わらず、しえみさんは私を足を凝視し続けた。


やっぱり変だよね…。

急に足が青あざのようになって、動かなくなっただなんて。



「名無しちゃん……その足どうしたの…?」



しえみさんはやっと口を開く。

私が答えよとした矢先、雪くんが口を挟むように答えた。



「階段を踏み外して足を強く強打したみたいなんだ。
そうだよね、名無し」



「え…、あ…うん」



雪くんに話を合わしてと目で言われたような気がして、私はその通りにした。

するとしえみさんは目をそらして黙り込んだ。




「しえみさん?」




しえみさんの様子がおかしいのか、雪くんが心配する。

やっぱりキャンプなんて来ない方がよかったんだ。
私が居るだけで皆に心配かけて、迷惑かける。




「しえみ、どうしたんだ…?
黙ってないで何か言えよ」




燐がしえみさんの顔を覗き込んだ。



「ねえ…。
名無しちゃんのその足って…、悪魔に憑依されてるんじゃないの…?」



しえみさんの言葉に私たち三人は驚いた。



「しえみさん、どうして…」



雪くんはしえみさんにきく。



「わかるよ、だって…私も昔足が動かなくなったことあるもん」



前?
しえみさんも私と同じ経験をしたのだろうか。



「私は名無しちゃんみたいに青くはならなかったけど…」



「あの時か、俺がしえみと初めて会った時だよな」



燐が言った。



「うん、燐と雪ちゃんが助けてくれたから今は歩けるようになったけど」



しえみさんがなんの話をしているか私にはさっぱりわからなかった。

でも、私が悪魔に憑依されているってバレた事に私は否定する事も出来ず、ただ黙って話に耳を傾ける事しかできなかった。



「名無しちゃんは悪魔に憑依されてるから、燐も雪ちゃんも早く逃げたほうが…」



しえみさんの言っていることは正論だ。


私は悪魔に憑依されているから、いつ人を傷つけてしまうかわからない。
だからやっぱり、



「だからなんだよ」



「え…?」



燐はしえみさんに言った。



「名無しは俺にとって大切な家族みたいなもんなんだ。
家族を見捨て逃げるとか……そんな事できるわけねぇだろ」



「兄さん……」



私が悪魔に憑依されてるってわかってても見捨てたりしない。
そんな燐はやっぱりすごく強いと思う。

雪くんも私を見捨てずにいてくれる。



「でも…燐!」



「しえみさん」



雪くんが口を開いた。



「名無しが悪魔に憑依されてる事、実は僕も兄さんも既に知っているんです」



「…知ってるなら…」



雪くんの言葉に驚くしえみさん。

私も雪くんの言葉に驚いた。


てっきり雪くんだけ知ってるんだと思っていたが、まさか燐も知ってただなんて。



「しえみさん。
この事は他の人には言わないでもらえませんか?」



「……え」



「僕がちゃんと名無しから目を離さないよう気をつけるので…」



「……でもっ…、それじゃ雪ちゃんが!」



「僕は平気です。
もしなにかあれば兄さんだっている」



「雪ちゃん…」



しえみさんは雪くんが好き。
だから雪くんを心配するのが普通なんだ。

好きな人が悪魔に憑依されている人の側に居るだなんて、私でも嫌だ。
だからしえみさんの気持ちが痛いほどわかる。



本当は雪くんの側にいちゃいけないんだ。


なのに私は……、なにしてるんだろ。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ