私もあなたも片想い
□7章
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(雪男 視点)
「雪くん…、好き」
名無しにキスされて驚いていた僕は、その言葉を聞いて更に驚く。
名無しのその言葉に耳を疑った。
僕は今までずっと名無しを家族としてみてきた。
だから、名無しが僕を好きだなんて考えもしなかった。
たまに名無しが僕に見せる頬が赤く染まった可愛い顔も、僕とあまり目を合わせようとしなかったのも、そういう意味だったのかとやっと理解した。
僕自身はどうなんだと考える。
僕は名無しが好きだ。
それはもちろん、家族として守りたいと思う気持ちからくるものだ。
そもそも、僕は恋愛感情というものがよくわからない。
小さい頃からずっと強い祓魔師になりたくて、がむしゃらに努力してきた僕には恋愛などというものとは無縁だと思っていた。
「…僕は」
名無しに好きだと言われて嬉しかった。
心からそう思う。
だけど、僕はそういう感情が分からないから本当のことを伝える。
「名無しのことずっと家族として見てたから…、だから…ごめん」
僕は名無しをフった。
「ううん…謝らないで」
名無しは笑顔で答える。
笑顔なのにその表情はどこか悲しそうで、僕は胸が締め付けられた。
僕の目の前で涙を流す名無しを見て、抱きしめたい衝動にかられる。
しかしそんなことしたら更に悲しむのは名無しだ。
「名無し」
僕はどうすることもできなかった。
ただ目の前で泣いている名無しを見守るだけしかできなかった。
こんなにも涙を流すほど僕のことが好きなんだ…。
そう思うとまた胸が締め付けられる。
なにが違うのか明確にはわからないけど、しえみさんに告白された時とは違う感覚だった。
名無しを抱きかかえてお風呂場から出た時、名無しにできていた青いあざのようなものは太腿まで広がっていた。
名無しも驚いていた。
しかしその顔は徐々に戻り、まるで同然と言わんばかりの顔をした。
僕はその顔を見て焦る。
まさか…、名無しは悪魔を受け入れているのか。
僕は名無しを見つめる。
すると名無しは口を開き言った。
「大丈夫だよ、雪くん。
悪魔は私の体が欲しいだけだから…」
なにも大丈夫な状況ではない。
むしろ普通の人なら自分の体が悪魔に侵食されていたら驚き抗い、助けを求めるのが普通だ。
なのに名無しときたら助けを求めることすらしない。
自分は悪魔落ちしてもいいと言ってるようなものだ。
脱衣所に一人残った僕は名無しのことを考える。
「……」
どうしたら名無しを助けられるだろうか。
名無しの中に居る悪魔は今までの悪魔とは違う。
一般的な悪魔は検査した時点で初めて悪魔とわかる。
だが、名無しの中に居る悪魔は検査には引っ掛からなかった。
あの悪魔はいったいなんだ。
侵食部分が広がったのは僕が名無しをフったからなのは間違いない。
悪魔は憑依先の人物の幸せを嫌い、不幸を好む。
だから僕が名無しをフったせいで名無しは更に悪魔に侵食されてしまった。
なぜ僕はそんなことがわからなかったんだ。
「くそっ…!」
勢いよく自分の拳を壁にぶつけた。
僕はどうしたらいいんだ。