私もあなたも片想い

□6章
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横にいる雪くんを見ると、雪くんも私と同じように何かを考えていた。



「雪くん「名無し」



お互いがお互いの名前を呼んだ。

雪くんと目があう。
私も雪くんも少し驚いていた。



「ごめん。名無しから先、話していいよ」



雪くんが言う。



「私から…」



なに言おうとしたんだっけ。

べつに話すことなんか無かったけど、ボーッとしていた雪くんの名前を呼んだのは確かに私だ。



「雪くんからでいいよ…」



「じゃあ僕から…、と思ったけど長風呂は体に悪いからそろそろ上がろっか」



「あ、うん」



そう言うと私に近寄る雪くん。

私は雪くんが抱きかかえてくれると思い、雪くんの首に手を回した。
しかし雪くんは私を抱きかかえてはくれず、動かなかった。



「雪くん…?」



雪くんの顔を見つめると至近距離で目があう。



「名無し…」



雪くんは私の顔を見て、ゆっくりと顔を近づける。



「雪くん…」



まさか…キスだろうか。
そんなわけない、雪くんが私にキスなんか…有り得ない。

でも私は目を閉じた。
雪くんからのキスされるのを待つ。



「えっ…」



雪くんは私にはキスをせず、そっと私を抱きしめた。



「雪くん…?」



雪くんに抱きしめられ、硬直する私。



「やっぱり名無しを嫌いになんてなれない」



「……」



嫌いになる?



「今までずっと名無しを避けてきた。
それは、本当に名無しの中に悪魔が居るとしたら…僕が悪魔を引き出す要因を作ってると思ったからなんだ」



要因…?

雪くんは話を始めた。



「夜空の下で名無しと二人で話した時、名無しは悪魔に憑依されていると感じた。
けど検査の結果、悪魔はいなかった。
でも名無しは僕を信じて話してくれたよね」



「うん…」



「でも、徐々に名無しの言ってることが本当ならと思ったらなおのこと名無しの側に居てはいけないと思った。
初めて悪魔が憑依した時、隣に居たのは僕だったから」



「……」



「だから必要以上に話さないようにしたり、名無しを避けてきたけど僕にはできない」



「雪くん」



「やっぱり名無しの側に居たいって思う」



雪くんは私を見つめた。

てっきり雪くんに嫌われていたのかと思ったけど違うんだ。
雪くんは私を心配して距離を置いていてくれた。

私が嫌いって言ったのに、それでも雪くんは側に居たいって言ってくれるんだ。


私はそんな雪くんが好きだ。
たまらなく好き、大好きなんだ。

自然と涙が頬を流れる。
胸がチクチクと痛い。


気が付いたら私は雪くんにキスをしていた。



「んっ…」



キスされて目を丸くして驚いている雪くん。


キスしてしまった。
雪くんが私の側に居たいのは家族としてなのかもしれないのに私は…。

もう隠すのは無理だと思い、私は告白した。



「雪くん…、好き」



「…え…、僕は」



雪くんの顔を見てわかった。


雪くんは私を好きじゃないってことを。
雪くんの側に居たいっていう意味は家族として、幼馴染としてってことを。

私だけなんだ。
片想いしているのは。

胸が張り裂けそうなくらい痛くなる。
息苦しくなる。



「ごめん…」



それ以上は言わないでほしい。

わかってるから。



「名無しのことずっと家族として見てたから…、だから…ごめん」



やっぱりだ……。



「ううん…謝らないで」



私はそう言って思い切り笑顔を見せた。
傷ついてないって、こうなるのはわかってたんだと自分に言い聞かせるように。

しかし涙は止まらなくてずっと溢れて止まらない。



「名無し」



雪くんが心配する。



「ごめんなさい…、もう泣き止むから」



こんな姿見られたくないのに涙が止まらない。
止まれ止まれと思えば思うほど涙が出る。

自分でわかっていたことなのになんで私はこんなに泣いているのだろう。
雪くんに心配でもしてほしいのだろうか。

だとしたら私は最低な人間だ。


声をこらえて泣く私を見て雪くんは困っているというのに。



「とりあえず、お風呂から上がろう」



「っ…、うん」



雪くんは私を抱きかかえるとお風呂から上がった。
脱衣所に着き、ゆっくりと私を車椅子に座らせた。

雪くんは他に好きな人が居るのだろうか。
それとも、ただ単に恋愛に興味がないのだろうか。



「名無し……」



「…?」



雪くんを見ると、私の体を見て驚いていた。
雪くんにつられるように私も自分の体を見る。



「っ…!?」



私は驚く。
あざのようになっていた足は太腿まで広がっていたのだ。



「やっぱり悪魔に侵食されて……」



雪くんは言う。

さっき泣いたから悪魔が喜んで私の体を蝕んだんだ、としか考えられない。


でも、べつにいいじゃない……。


私はあの時、悪魔にお願いしたんだから。

雪くんには手を出さないように、私はどうなってもいいからって…。


あの時、私は確かに悪魔を肯定した。

だからこうなって当然だ。


私はいつか全身動かなり、悪魔落ちするのだろう。



「雪くん、大丈夫だよ」



私は笑顔で言う。



「悪魔は私の体が欲しいだけだから…」



私は見て見ぬ振りをした。
自分の体を、悪魔を。

体を拭いて服を着て脱衣所を後にした。
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