短編集

□Shall we dance?
2ページ/2ページ

 おまけという名の小話。次不、不次風味。

「なんで不二子と夫婦役なんだよ…」
「仕方ないでしょ、盗み出すのにルパンの指と五ヱ門の斬鉄剣が必須なんだもの。忍び込むのも2人が限界なら、参加者に紛れるしかないじゃない」
 はぁ、とお互いに溜息を吐いた。一度外へ出て様子を見るかと目配せし、出入り口から外へと出る。
「…!なんと美しい方だ、よければ一曲如何ですか?」
 途端に不二子を見た優男がスッと彼女のの手を取った。どうやら面倒ごとに巻き込まれたようだ。ごめんなさいね、とやんわり断れば男は目を吊り上げてこちらを睨む。
「どうしてです?こんな髭の男より僕の方がいい男でしょう、一応○○という会社も経営しているのですよ?考え直す気はないですか?」
「んん、とっても素敵なお誘いですわね。けれど残念、わたくしはこの方と結婚しているので…」
 不二子にズイズイと距離を詰める男に、彼女は笑顔なものの嫌そうに一歩二歩とゆっくりと下がる。チラリとこちらへヘルプを求めるように目配せした。
 はぁ、とひとつ溜息を吐いて不二子の肩を片腕でそっと抱きしめる。そのまま自分の方へと引き寄せて、ニヤリと男へと笑いかけた。
「悪いなぁお坊ちゃん。コイツぁ俺のもんなんだよ」
 そのまま色っぽい動作で不二子の髪を一房手に取りキスを落とせば、周囲の目が一斉にこちらへと向いた。絡んできた男は顔を真っ赤にすると、そのまま口をパクパクさせていたが、勝ち目がないと思ったのかそのまま何処かへと去っていく。
「…次元あなた…そういう事も出来たの?」
「ルパンの猿真似だ、俺の趣味じゃねぇよ。悪かったな勝手な事をして」
 構わないわ、と不二子はまた凛とした姿勢で隣へと立った。そっと俺の腕へ自然に腕を絡めると、上目遣いでこっちを見つめてくる。
「これなら絡まれにくいでしょ?」
「…好きにしろ」
 拒否しようかと思ったが、そんな事をすれば無駄に目立ってしまう。仕方がないので素っ気なくそう返すと、そのままパーティ会場へと戻っていった。


「どこだぁ〜ルパァアン!!」
「ゲッ…とっつぁん…!」
 聞き覚えのあるダミ声に、次元の顔が引きつった。私も盛大に顔を顰めている。彼がここまで嗅ぎつけてくるとは嫌な誤算だった。
 顔を知ってるものなどいないだろうと、今の私と次元はほぼ素顔のままだ。彼に見られれば一発で正体がバレてしまう。
「催眠弾…は、ダメだな、目立っちまう…クソ」
 立ち位置も悪かった。パーティ会場から少し離れた廊下の行き止まりで作戦についてルパンから話を聞いていたのだ、側から見れば怪しい奴とも言えるだろう。
 帽子もなく前髪もオールバックになっている分、次元の焦った表情がよく見えた。ひとつ溜息を吐いてそのまま彼の手を取り、私を挟むように奥の壁へ手をつけさせる。
「…なんの真似だ」
「いいから。バレたくなければ抵抗しないで」
 銭形がこちらに気が付き不審な顔で向かってくるのが次元の肩越しに分かる。後もう少し、引き付けて…こちらの姿がしっかりと見える位置まで。
 今。絶妙なタイミングで、私はネクタイを引っ張って次元の顔を引き寄せると少し乾いた唇へとキスをした。
 次元の目がまん丸に見開かれ、何をするのかようやく分かったようで子どものようにギュゥッと目を閉じた。そう、それでいい。彼の首に手を回すと、こちらを見てフリーズしている警部に聞こえるように、アァン、と自分の声より高く柔らかい声を上げてみせる。
「し、失礼いたしました…!」
 慌てて帰っていく銭形を肩越しに確認しつつ、まだよ、と次元に囁いた。姿が見えなくなるまでしっかりと『暗がりでイチャイチャしている夫婦』を演じる。ようやく彼の姿が消えて、そっと顔を離してあげた。
「不二子…おふざけが過ぎるんじゃねぇか」
「あら、じゃあ次元には他に何かいい方法があったのかしら?」
 挑発するようにそう言えば、クソ、と悪態をついて彼が離れていった。平静を保とうとしているが、真っ赤に染まった耳が丸見えである。
「…アンタ案外ウブなのね」
「何だと?やめてくれ、そこらの小僧と一緒にされちゃ堪らねぇよ」
 どちらかと言えばきっとそこいらの坊ちゃんより貴方の反応の方が初々しさは上だと思うわよ、と思ったが敢えて口にはしなかった。
 俺の方がルパンよりモテる、とアジトで言い争っていた事を思い出し、思わずクスリと笑みが溢れてしまう。キスだけでああなるなんて、ずいぶん健全なお付き合いね。それとも相手が私だから?
 自分のことを話したがらないガンマンの意外な一面に機嫌が良くなり、私はまた次元に腕を絡ませてパーティ会場へと戻っていったのだった。


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ