短編集

□異常事態発生中!!
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「……まずいな…」
 次元は今悩みに悩んでいた。ルパンがダウンしたので人手が足りないのである。
 彼がダウンしていたとしても次のヤマの情報は集めねばならない。しかし誰か1人はルパンを見ていないと不安だ。五ヱ門が付いてくれているが、いつ謎の汁を飲ませるか分かったものじゃなかった。しかも看病に慣れてない。不安だ。不安要素が多すぎる。
「…仕方ないか……」
 チッと小さく舌打ちをし、次元は電話を手に取った。

「アンタが呼ぶなんて珍しいじゃない?」
 数十分後、アジトに来たのは次元の天敵である不二子だった。顔を見るなりチッ!と舌打ちをし、不二子の目が怒りに見開かれる。
「ちょっと次元?アンタが私を呼んだのにその反応はないんじゃないの!?」
「うるせぇな、静かにしてくれ。俺だってお前の手を借りなくて済むならそうしたかったよ」
「…何、そんな切羽詰ってるわけ?何があったのよ」
「ルパンが倒れた」
 は?と彼女の顔が不可解を示した。そりゃそうだろう、次元も数時間前までそうだったのだから気持ちはよく分かる。
「自作の薬の実験に自分使ってダウンしやがった。数日手が離せねぇ」
「馬鹿じゃないの?」
「ああ大馬鹿野郎だよあいつぁ、お前さんもよく知ってんだろ」
 はぁ、と不二子がため息を吐いた。仕方ないわね、と腕まくりをすると次元の方を向く。
「ルパンは部屋にいるのね?」
「あぁ」
「じゃ、アンタは仕事に専念なさい。何かあれば私が呼ぶわ」
 そう言って何か持っていくものはある?と聞かれた。ふと思い出し、ゴム製の氷枕を取り出すと買ってきてもらった氷と水を詰め、封をした。
「これをルパンの枕と代えてくれ。すまねぇな」
「嫌ね、やめてよ。素直な次元なんて気色悪いったらありゃしないわ」
「んだと?」
 次元が不機嫌そうに低い声を出せば、それでいいのよと飄々と不二子はルパンの部屋へと入っていった。よく分かんねぇ奴だなとボヤきつつも、とりあえずリビングでパソコンを開いたのだった。

「ルパン?氷枕持ってきたわよ」
 コンコン、とノックをしてから部屋に入る。いつもと違って静かすぎるその部屋には上半身を起こして口元を押さえているルパンと、食べかけのリゾットをサイドテーブルに置いてオロオロしている五ヱ門。
「…ルパン?」
「っ不二子、ルパンが」
 助けを求めるように五ヱ門がそう言った瞬間、ルパンの指の隙間から吐瀉物がこぼれ落ちた。
 咄嗟に近くに置いてあったゴミ箱を手に取り、すぐさま駆け寄ってルパンの顔の前へと差し出す。背中をさすり、そっと口元を押さえていた手を避けてやった。
「気持ち悪いなら吐いちゃいなさい、スッキリするから」
「ふ、不二子…」
「五ヱ門、外の髭にスポドリ持って来いって言ってきて。あと洗面器も」
 指示を出せば、五ヱ門は飛ぶように外へと出て行った。まるで犬みたい、なんて他人事のようにそう思う。
「う"…ッおぇ"」
「はいはい、しんどいわねぇ。出すもん出してスッキリしちゃいましょ」
 しんどそうにえずくルパンの顔は、見たことないほど弱り切っていた。いつでも飄々としている彼のそんな表情に、不本意ながら母性本能がくすぐられる。
 ようやく気持ち悪さが落ち着いたのか、はぁ、と息を吐き出したルパンを見てそっとゴミ箱を避けてやった。ルパンはようやく不二子を認識したようで、どうしてここにと目を丸くしている。
「次元に呼ばれたのよ、手を貸せって。まさかこんな事になってるとは思わなかったけど」
「次元が…珍しいこともあるもんだ」
「明日は槍が降るんじゃない?」
 ちげぇねぇや、と弱々しく笑う。熱で真っ赤な顔は汗が止まらず、近くにあったタオルで汗を拭くついでに口元も拭ってやった。
 そのままゆっくり体を倒してやり、吐いても喉がつまらないように横向きの姿勢にしてあげた。枕を先程の氷枕に変えてやれば、気持ちよさそうにほぅ、と息を吐き出した。
「んふふ…ふーじこちゃんに看病されるなんて、夢みたいだぜ」
 ぼんやりとした顔で嬉しそうに笑う彼に、馬鹿ね、と笑いかけた。
 きっと次元が私を呼んだ理由にルパンが喜ぶからというのもあるのだろうと分かっていた。でなければあの男なら自分が無理してでも看病と仕事を両立させていたはずだ。
「元気になったらちゃんと借りを返してよぉ?」
「わぁかってるって…ありがとな、不二子」
 疲れてしまったのか、横になるとうとうとと目を瞬かせる。寝ていいわよ、と目元をそっと手で押さえてやった。
「ふじこちゃ、」
「おやすみなさい、ルパン。こんな時くらいゆっくり休むといいわ」
 自分が出したのかと驚くほどの優しい声色に思わず苦笑しつつ、そっとそのまま頭を撫でてあげた。ルパンは静かに目を伏せると、そのまま微睡の中へと落ちていった。
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