短編集

□異常事態発生中!!
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「…五ヱ門……お前…」
 ガンガンと痛む頭を抱えた。目の前には五ヱ門…と、ルパンがロックで飲むために買い貯めていた酒用の氷が見るも無残にバラバラになった姿。
 なんとか気持ちを落ち着けると、申し訳なさそうにしょんもりしている五ヱ門の方を見る。
「なんでこうなった?」
「…次元」
「おう」
「氷枕とはどういうものなのだ」
「分からねえなら一番最初に聞いてくれ…!!」
 いくらでも教えるから…!と肩を掴めば、すまぬ、と悲しげに眉を下げてしまった。もう既にバラバラに砕け散った氷は殆ど溶けてしまっている。
「氷枕がなんだと思ってこうなったんだ?」
「文字通り氷でできた枕なのかと…しかしそこまで大きな氷がなかったのでぱずるのように組み立てようと思ったのだ」
「…さては溶けて全然噛み合わなくなって詰んだな?」
 うっと五ヱ門が目を逸らす。とりあえずありがとな、説明しなかった俺も悪いとフォローを入れておく。
「もう氷がねぇ。買ってきてくれるか?近くのスーパーで買えるはずだ。場所は分かるな?」
「うむ、あそこならば行ける」
「待て!ほら一応地図持っとけ。よし、頼んだぞ」
 いってくる、と名誉挽回のために意気込んで家を飛び出していった五ヱ門を見送る。今度氷枕の意味と使い方を教えようと心に決めた。
 何はともあれルパンの飯の準備が先である。作ってあった朝ごはんのうち、五ヱ門の分の余った米を使って簡易のリゾットを作ってやる。出汁と卵でまとめたので味的には卵粥に近いだろう。一口食べて薄味に仕上がったそれに次元は満足に頷くと、水と一緒にお盆に乗せて運んでいく。

「…ルパン、飯。起きろ」
 そう声をかければ、ルパンは目をゆるりと開けた。しかし困ったように眉を下げてこっちを見つめてくる。
「どうした?」
「…悪ぃ、起き上がれねぇわ」
 力が入んね、と申し訳なさそうに笑う彼に早く言えと眉間にシワを寄せ、サイドテーブルにお盆を置くとそっとルパンを抱き起こした。汗まみれのその体に思わず眉を寄せる。
「……熱が酷いな…ったく、こんな薬で何しようとしてたんだ?」
「いやぁ、一旦捕まってからこれを使って病院に移って、そっから脱出をだな…ここまで重くなる予定じゃなかったんだけっども……」
「あー…喋んの辛いなら無理に答えなくていい。悪かった」
 覚束ない口調に優しくそう言って、背中にクッションや枕を入れてやり、楽な姿勢を作ってやる。ぽーっと熱に浮かされたそいつに盆を差し出したが、どう見ても自分で食べれそうにない。体勢が崩れれば倒れてしまいそうである。
「…あーもー、仕方ねぇな」
 スプーンを手に取り、一口分リゾットをすくった。ふーふー、と息を吹きかけて少し冷ましてやってから、ほら、とルパンの口元に運んでやる。
「…かわい子ちゃんがよかったなぁ」
「贅沢言うな。それともこれ食うのやめとくか?」
 ひょい、とスプーンを取り上げれば、イヤイヤとルパンは首を振った。その動作でも頭が痛むようで、うっと表情が歪む。
「…ほら、早くしろ」
 渋々口を開けたルパンの口にリゾットを入れてやる。彼はゆっくりと咀嚼すると、それを飲み込んだ。
「美味いな…次元ちゃん本当に料理上手ね」
「誰かさん達が料理作らねぇからな」
 ガチャン、と玄関から音が響くと五ヱ門が帰ってきた。両手いっぱいに氷の塊を抱えている。
「えっいや多すぎ…」
「ただいま帰った。…次元、拙者もそれをしたい」
 スプーンを持って食べさせているのを見ると、どこかキラキラした目でそう言ってきた。いつもは構われる側だからこういったシチュエーションが珍しいのだろう。
「わかった分かった、とりあえず溶ける前に冷凍庫に氷しまってこい」
 そう指示を出せば、2分もかからずに戻ってくる。そわそわした様子の五ヱ門にリゾットを手渡し、席を譲ってやる。ルパンが不安そうな目でこちらを見ていたが、次元は見事に無視した。
「ルパン、あーんだ。口を開けろ」
「そんなクソ真面目にやられても困んだけどな…」
 慎重にスプーンを差し出した五ヱ門に苦笑しながらルパンが口を開ける。即座に口にスプーンが突っ込まれ、モガッとルパンが噎せかけた。
「ん、早く口を開けろ」
「待て待て待て五ヱ門。ルパンが飲み込んでから次の一口だ、いいな?」
「む…承知した」
 すかさず二口目を口元に持っていった五ヱ門に、慌てて次元はアドバイスをした。その後はちゃんと飲み込んだのを確認してから次の一口を差し出していく。
「…とりあえずキッチン片付けてくっから、後は頼んだぞ五ヱ門。何かあればすぐ呼んでくれ、いいな?」
「うむ、任せてくれ」
 頷いた五ヱ門に少し不安を覚えつつ、次元はルパンの方を見た。あからさまに具合の悪そうなルパンに大丈夫だと頷いてみせ、そのまま部屋を出て行った。
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