短編集

□俺の相棒がカッコいいだけなはずがない!
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 目撃情報1.仕事後

「また不二子に獲物を横取りされやがったな、ルパン!」
「わぁごめんごめん、次からは気をつけるってぇ、だからそんなに怒るなよ、な?」
 必死に手を合わせて謝り倒す。次元は相当頭にきたようで、もう知らねぇ、二度とお前とは仕事しねぇ!と自分の部屋へと戻って行ってしまった。
「…おっかしいなぁ……」
 ポツンと居間に残され、ふと首を傾げた。確かに今回のヤマはデカかったけれど、今まで盗んできたものに比べれば少し見劣りする。それに次元は不二子ちゃんと違って金にがめついという訳ではない。
 そういえば、仕事の時いつもより次元は気合が入ってたな。いつもの気怠い雰囲気が少し薄くて、どうしてこんなに機嫌がいいのかと思ったものだ。
 チクリと刺さるような違和感に、もしかして俺が気付いていない何かがあるんじゃないかと気がついた。改めて獲物の情報やら何やらを調べて、ふと手を止めた。
 そういえばこの獲物、昔次元と狙ったものだったんだよな。その頃は俺も若かったし、確か仕事は失敗して…あ、
「やっちまった…これはマズいな」
 致命的な見落としに気がつき、慌てて電話をかける。繋がった先はよく見知った仲の女詐欺師だった。

「…次元ちゃーん……?」
 ガチャ、と次元の部屋の扉を開けると、部屋の主は扉に背を向けるようにしてベッドに寝転んでいた。背中越しでもめちゃくちゃ怒っているのがひしひしと伝わってくる。
「…本当にごめんね?」
「……」
 返事はない。あぁ、やっぱり本気で怒っているな、と苦笑した。
「さっき思い出してさぁ…あれ、お前と組んでやった仕事で初めて盗めなかった獲物だったよな?」
 ピク、と次元の肩が反応した。この男は自分の腕にちゃんとプライドを持っている上ロマンチストなので、きっと昔の失敗を腕を上げた今取り返そうと思っていたのだろう。
 実際に前の失敗の時は、確か次元が撃たれて慌てて退却したのだ。その途中で森に宝石を落とし、とっつぁんに拾われてしまった。彼にとって苦い思い出だった事は想像に難くない。
「気合入ってたもんな、なのに盗られて本当に悪かったよ」
「…俺はどんな仕事でもちゃんと気合入れてやってるつもりだが」
 それは勿論分かってるって!そう言ってもフンと拗ねたように丸くなるばかりだ。これは相当ヘソを曲げてるな。
「ごめんってぇ次元…機嫌直してくれよ」
「………別に盗られたから怒ってる訳じゃねぇよ」
「じゃなんで?」
「……だ」
「ん?」
 ガバッと次元が起き上がった。そのまま苛立ちに任せてベッドをグーでバンッと殴る。
「毎度毎度アイツに盗られてんのに、注意してなかった俺にムカついてんだ!」
 はぇ?と俺は相当間抜けなツラを晒していたに違いない。勢いよく起き上がったせいでボルサリーノは脱げ、彼の顔がよく見えた。何かに堪えるようにグッと唇を噛み締めて、目は微かに潤んでいる。
「前の時も今回も、結局最後の最後に気を緩めたから起こった失敗だろうが。…何が世界一のガンマンだ…」
 何も学習してねぇじゃねぇか、と拳を握りしめる次元に、それは違うと声を荒げる。
「お宝持ってたのは俺様だろ?不二子に盗られたのは俺の失敗じゃないの」
「それでも不二子が狙ってんのは分かってたんだから、2人の間に割って入るとか盗られてもアイツを捕まえられるように警戒しときゃよかったんだ」
「そーんなたられば言っててもどうにもならんでしょーよ…」
 そもそも不二子に盗られると分かっていても次元はせいぜい声をかけるくらいで、割って入ったりしなかった筈だ。それを俺が嫌がると分かっているからである。
 うーん、と少し考える。随分とマイナス思考に走っているようだ。そもそもこのヤマのせいで5日ほど不眠不休だったので疲れもあるのだろうな、と思う。実際俺様も眠くて仕方ないしなぁ。本音を滅多に話さない男なので、これはこれで嬉しいんだけれども。
「じゃあさ、盗り返しにいこーぜ?」
「どこにだよ」
「そりゃもちろん、ふーじこちゃんのとこにさ」
 反応をピコピコ伝えるレーダーを見せれば、次元の目が大きく見開かれた。帽子を拾ってやって、ぎゅっと頭に被せてやる。
「三度目の正直ってやつよ。今度は成功させようぜ、相棒?」
「…ったく、仕方ねぇな」
 次元の口元が、ふにゃっと嬉しそうな笑みを浮かべた。思わず固まれば、どうした?と次の瞬間にはいつもの飄々とした格好いい相棒に戻ってしまう。
「おま、今の顔」
「は?」
「……いや、なんでもねぇよ。行こうぜ!」
 きっと俺にだけ見せてくれた笑みなのだ。大事に心の中にしまっておいて、次元と共に家を出た。
 自分の不甲斐なさに落ち込んだり、一緒に仕事ができれば喜んだり。
 あぁ、もう、なんていうか本っ当に。

「俺の相棒、可愛すぎるだろ…!!」
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