短編集

□みんなの苦手で嫌なことep
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 一年と半年後の、夏。
 ふと外を見れば瞑想に耽っている五ヱ門が見えた。朝とは言えこのクソ暑い日にご苦労なことである。
 空は青く空気も澄んで清々しい朝だった。何かいいことがありそうだなんて思いつつ、不二子ちゃんの部屋を覗いてパンチマシーンに追い出される。まだダメかぁ、と内心その一連の動作を楽しみつつ、下へと降りていく。
 ふと忘れる所だったと次元の部屋をノックした。返事は当然聞こえない。そのまま入るよぉ、なんて間の抜けた声を出しながら、ギィッと扉を開けた。
 次元は、そこにいなかった。
 おかしい。急速に指先が冷えていく感覚。だってアイツは記憶が不安定で、朝俺が起こしに行くまでは周りを注意深く見ていることが殆どだったのに。ベッドから出るにしても、部屋から出た試しはない。まさか、と思った。
 窓を開け放ち、すぐ側にいた五ヱ門へ声をかける。
「五ヱ門!次元見なかったか!」
「む?見ていないし窓から出た気配はないが…どうした、消えたのか!?」
「分からねぇ、俺も今ここに来たとこで…」
 今すぐ戻ると言い残して五ヱ門が裏の玄関へと走っていく。俺もどこにいるのか探さねば、とダイニングの方へと向かい
 見つけた。
 トントン、と手際よくキュウリを切りながら朝飯を作っている、いつものヤツがいた。いつものっていうのはもちろん、一年半前の彼のことだ。
「じ、…次元…?」
 あぁ、名前を呼ぶ声が震えていたような気がする。カッコ悪いなと内心思いつつ、呼ばずにはいられなかった。
 そいつは俺の声を聞くとすぐに振り返り…ニ、と大人びた笑みを浮かべて見せた。

「おう、おはようさん、ルパン」

 ひゅ、と喉が鳴った。ずっと会いたかった、目の前にいるのに会えなかった人物が、そこに立っていたのだから。
 こちらの気も知らないで、当の本人は呑気なものだった。サンドイッチでも作っているようで、ササッとハムを薄くスライスしながらぶつくさと文句を言う。
「ったく体はダリィし腕は鈍ってそうだし。そういやアジト出る前は冬だったよな?てことは俺半年ぐらい寝込んでたってわけか?」
「………だ、………」
「あ?なんだルパン、聞こえねーよそんな小さい声じゃあ」

「一年半だっつってんだよこの馬鹿やろーーめッ!!」
 そう叫び、びょーんと飛び上がるとその勢いのまま抱きついた。次元は慌てて包丁を置くと、何とか俺様を支えることに成功したのだった。
「うぉおおっ!?なんっどうしたってんだルパン!?」
「どーもこーもあるかってんだぁんのバカ!!俺様がどんっっっだけ心配したと思ってんだこのー!!」
「だぁーっもう引っ付くな男同士だろうが気持ち悪りぃ!!」
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