短編集

□みんなの苦手で嫌なこと4
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 敵のアジトはまるで城のような場所だった。乗ってきた車をすぐ側の雑木林へと止めて見上げる。ハッキングを駆使すれば中の監視カメラを利用して様子を確認するのも楽勝だった。
 地下に五ヱ門、一階の奥に不二子、そして天辺付近に次元。流石に3人を一ヶ所に集めておく度胸はなかったらしい。巡回のコースも大体頭に叩き込み、さぁ助けに行くかと一歩踏み込んだその時だった。
「お前さん、何をしている?」
 かけられた声に瞬時にワルサーを引き抜き銃口を向ける。押さえ込んでいた殺意が溢れると、そのまま引き金を引こうとして…その声を出した本人が誰なのか、ようやく気がついた。
「本当にどうしたんだお前さん。近づいていたワシにも気がつかず、あろう事か銃を向けるとは」
 見慣れたゲジ眉にがっしりとした体格。とっつぁん、と呆然と呟いた。その時の俺は、さぞかし間抜けな顔をしていたのだと思う。
 銭形のとっつぁんはそんな俺を笑いはしなかった。まっすぐにこちらを見つめると、彼に見合わぬ静かな声で問うてくる。
「何かあったんだな?」
「…さぁ、どうなのかねぇ。とっつぁんこそ、よくまぁ俺がここにいるって突き止めたもんだ」
「……ICPOに連絡が入った。この城へルパン一味の次元らしき人物が入っていったと」
「!!」
「おかしいと思ったんだ、ルパン。お前さんはあの相棒の扱い方を心得ている。一緒に忍び込んだり遠くから狙撃を任せたりするならともかく、ガンマン1人を囮にして自分だけ成功するような筋書きを書くような奴じゃあない」
 全くもってこのとっつぁんには全てお見通しのようだった。でも。
 話せば巻き込んでしまうだろう。しかも今から俺は敵を全滅させる気でいたのだ。殺しの大嫌いな彼が、それをよしとするわけがなかった。
「ルパン。」
「さぁすがとっつぁん、俺のことならなーんでもお見通しだねぇ」
「ルパン。」
「けどまぁ、今回のヤマには出来れば首突っ込まないで欲しいんだわ。流石のとっつぁんも命がいくつあっても」
「ルパン!」
 言葉を遮られ、肩を掴まれる。目の前の警部は酷く怒っているようだった。なんだよ、怒りたいのはこっちの方だってのに。
「…俺の任務は、お前を生きて捕まえることだ」
「知ってらぁ。それが今更なんだってのよ?」
「お前が死地に向かうと言うのなら、俺も行くと言っているんだ!」
 は?と目を丸くする。何を言い出すんだ、この男は。
「ルパン。俺はお前のことをよーく知っている。無謀な戦いはしないことも、引き際をよく分かっていることも、だ。用心深く作戦を立て、それに沿って行動しつつイレギュラーが起きれば第2第3の手を打てる賢いやつだってこともな」
「…随分とベタ褒めするじゃないの?明日は槍でも降るのかしらね」
「そんなお前が『命がいくつあっても足りない』とまで言う場所に、仲間を1人も連れていかんのは何故だ」
 痛いところを突かれ、ふと黙ってしまう。あぁ、これだからこの警部は侮れないのだ。
「…なんでもお見通しだなぁ、とっつぁん」
「1人で3人助けるつもりか?いくら何でも無茶だろう」
 奴らが何もされないのに脱出しない訳がない、ととっつぁんは苛立たしそうに顔を顰めた。
「何をされてるのか分からんのか?」
「…1人は閉じ込められ、1人は拷問。後の1人は確証はないがヤク漬けってとこだろうよ」
「な……っ」
 とっつぁんが絶句する。まさか閉じ込められているのは不二子か、と鋭く言った。ご名答、そうかとっつぁんは不二子が閉所恐怖症なこと知ってたなそういえば。
「とっつぁん…俺は今日、アンタが好きなルパン三世ではいられないぜ?」
「………」
「これからも殺しは嫌いだし、命を狙われたとしても相手の命を取るつもりもないが…
今回ばかりは、許せねぇんだ」
 分かってくれ、とっつぁん。そう言って見つめれば、グググググっと彼は黙った。そして静かに口を、開く。
「……ぃ…だ」
「ん?」
「これは!ギリギリ正当防衛だ!!」
「え?…ん??」
「お前は命を狙われている。仲間も命の危機ならばギリギリ正当防衛だろう!俺は今日バーで酒を飲んでいて、これから悪夢を見るだけだ!違うか!?」
「…とっつぁん……」
 そこまで言われて断れる奴が、この世のどこにいるのだろうか。
「……すまねぇ。力を貸してくれ、とっつぁん」
「勘違いするなよ。俺は、お前らを死なせたくないだけだからな。殺しには加担せん、あくまで脱出のみだ」
「分かってるってぇ。んじゃ、ちょいと作戦練り直すから10分頂戴」
 敵さんに見つからないよう草陰に隠れると、監視カメラを元に制作したマップを見ながら何十通りもの作戦を頭の中に組み上げていく。
 外の敵をとっつぁんが見張っていてくれたので、あっという間に準備は整った。

「行くぜ、とっつぁん」
「…おう」
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