短編集

□みんなの苦手で嫌なこと3
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「ようこそ、次元大介」
 玄関に入った瞬間持っていたマグナムを構えたものの、数十人に囲まれて流石に身動きが取れない。銃撃戦の為の遮蔽物は一切取り除かれており、随分警戒されているなと苦笑が漏れる。
「2人はどうした。無事が確認できねぇならお前の頭に風穴が開くぜ?」
 リーダー格らしき人物に銃を向ければ、笑いながら何かボタンを押した。上から依然箱に詰められたまま震えて意識のない峰不二子と、ボロボロになりもはや生きているのが不思議なくらいの五ヱ門が磔の状態で降りてくる。
「不二子!五ヱ門!」
「武器を捨てたまえ。仲間を殺されたくなければな」
 不二子と五ヱ門に一斉に銃が向けられる。チッと軽く舌打ちをして、銃を腰から抜くと近くの雑兵に向かって滑らせた。
「……っげ、ん」
「五ヱ門?意識はあんだな、何よりだ」
「…にげ、ろ……や、く……」
 黙れ!と怒号が響き五ヱ門の腹に一発重たい一撃が入った。背に壁があるので衝撃を逃すことすらできず、ぐたりとそのまま伸びてしまう。
「分かった、分かった!こんな状況で抵抗しねぇって。そいつらには手ェ出すな」
 仕方がない、とハンズアップすればニマリと嫌な笑みを浮かべられる。部下共に背を銃でせっつかれながら歩いている途中、リーダーらしき男が嘲笑うように声をかけてきた。
「あの次元大介も落ちたもんだな。こんな安い手に引っかかるとは」
「…そりゃどーも。褒め言葉として受け取っとくぜ」
 あの馬鹿と出会う前なら確かにこんなことしなかっただろうな、なんて感慨深く思いつつ、暗い廊下を進んでいくのだった。



「そこの椅子へ座れ」
 ドン、と背中を押されて椅子へと座れば、一瞬で両手足を固定された。無駄にハイテクだななんて感心しつつ、顔を上げて…引き攣った声が思わず溢れた。
 そこには無数の注射器が並べられていた。透明なものから蛍光色の見るからに毒々しいモノまで様々用意されており、どれから打とうかと楽しげに男達が話し合っている。
「ヤク漬けにして調教したら俺達のコマに出来るんじゃねぇか?」
「いや、ルパンと一番長く一緒にいる男だから自白剤打って情報引き出そうぜ」
「一本は毒を打ちてぇなぁ、こいつには煮湯を飲まされたからよ」
「死なねぇ程度のやつにしろよー、楽しみは長い方がいいだろ?」
「……っ…、………」
 じわり、と額に嫌な汗が滲む。ボルサリーノを被っていてよかった、今の俺はきっと情けないツラをしているだろうから。
「じゃあまず1本目!」
 スーツが破かれ、色の悪い素肌が曝け出された。
「ッ…やめ、」
「おやぁ?ガンマンさんはもしかしてお注射が怖いのかなぁ〜?」
 目の前に針を突きつけられ、ヒッとまた情けない声を出して顔を背けた。恐らく奴らは先端恐怖症を知っていてこんな事をしているのだろう。悔しさに唇を噛みながら、目を瞑った。
「じゃ早速いくかぁ!」
 プツリと肌を刺す感触に、ゾワリと悪寒が走った。


 一体どれだけの時間が経ったのかすら、わからない。
「ッああ、…ぅ"……」
「世界一のガンマンが情けねぇツラしてらぁ。そろそろ自白剤打って吐かせるか?」
 麻薬を打たれているようで、時間が経つと悪夢のような副作用に苦しめられた。視界は暫く前からグニャグニャと曲がり定まらない。気持ち悪さにゲェッと嘔吐すれば、汚ねぇだろ!と大声で怒鳴られて腹を殴られた。
 自分が誰で、何をされているのかすら曖昧な感覚。ずっと頭が痛く吐き気が止まらないのは毒を打たれているのだろうか。もはや理性は殆どドロドロに溶け切って、意味をなさなくなっていた。
「さぁ、お薬の時間だ」
「…っ!!いや、だ、やめっいやだぁあ!」
「暴れんなこの…!薬効いてるからってガキみたいに駄々こねやがって!」
 注射器を持った男が俺の腕を掴んだ。もはや薬を打たれすぎて紫色に変色してしまった左腕へ、容赦なく注射が打たれる。
 既に溶け切っていた思考が更に濁り、自分が何者なのかすらももうわからなかった。
 こわい
 いたい

 あぁ、

 もう、だめなようだ


「ルパン三世の弱点はなんだ」

 る  ぱん ?

「…しら、な、」
「薬が足らんらしいな。もう一本追加するか」
「けどこれ以上やったらコイツもう廃人になっちまいますよ」
「構わん。どうせ殺すんだ、大差はなかろう」

「 …、 るぱ ん  だれ?」

 ぐるり、ぐるり、せかいがまわっている。
 おとこたちは、おれをみて、わらっているようだった。
 あいぼうを、わすれる なんてって、わらっている。
 おとこたちって、だれだ?
 あいぼう  は なんなんだろ う



 おれは いったいだれ  なんだっけ


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