短編集

□みんなの苦手で嫌なこと2
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「…ハッ……ここ、は…」
 急に意識が浮上し、目を開く。薄暗い部屋には山のような拷問器具が用意され、手足は分厚い金属板で固定されビクともしなかった。
 あぁ、あの女に騙され捕まったのだと思い出す。こんな拘束具のことを彼奴らはちょこれぃとの様な手枷だと言っていたな、なんて考え、こんな時まで奴らのことを考えている自分に失笑した。恐らく情報を引き出そうとしてくるだろうが、当然一言も話すつもりはない。
「目が覚めたか、五ヱ門」
「!…誰だ」
 ドアが開き、複数名の男どもがわらわらと入ってくる。全員見覚えは全くなく、さては自分が目当てではないなと見当をつけた。
「情報なら喋らぬぞ」
「あぁ、もちろんそんな事をして貰うつもりは全くねぇよ」
「何…?」
 情報目当てでないのならば何だというのだろうか。怪訝な顔をしている自分に、下品な笑みを浮かべて男の1人が近づいて来た。
「俺達が欲しいのは、お前さんが傷ついて奴らに助けを乞う動画なのさ」
「な…!?」
「お前さんが口を割らねえことは知っている。どんな拷問を持ってしても、お前は仲間を売るくらいなら死を選ぶ。そんな男だろう?」
 その言葉に、ぐっと息を詰める。相手は相当こちらのことを調べて来ている様だった。自分のことも、恐らくは他の奴らのことも。
「お前はただ俺達に痛ぶられ、悲鳴をあげてりゃそれでいいのさ。不二子の分はいい絵が撮れたしなぁ」
「ッ貴様ら、不二子に何をした!?」
「なぁにちょっとトラウマを刺激してやっただけさ。外傷はねぇぜ?一応女だからってことで手加減してやったんだ。ま、本人は過呼吸起こしてぶっ倒れたけどなぁ」
 ドッ、と男達から笑いが巻き起こる。ギリッと唇を噛み締めた。今無理やり逃げ出そうとすれば出来るかもしれないが、そんな事をすれば不二子に手を出すと暗にこいつらは脅して来ているのだ。
「分かってんだろ?お侍さんよ」
「卑怯な…っ」
「大丈夫、ルパンっていうメインディッシュを殺すまではお前も殺しゃしねぇからよ」







「グッ……ぁああああ"っ!!」
「おいおいまだ2枚目だぜ?しっかりしてくれよお侍さんよ…ま、聞こえてねぇか」
 頭にはヘッドフォンをつけられ、鼓膜が破れないギリギリの音波を発し続けていた。頭を直接割られるようなその音は、全く途切れる事なく五ヱ門を苦しめ続ける。
 左手へ、またペンチが近付けられた。既に親指と人差し指の爪はなく、ダラダラと血を流すばかりだ。
「おら、休んでんじゃねぇぞ!!」
「ゥグッぁああ、ああああぁあああ"……っ」
 全身はもはや鞭を打たれていない部分を探す方が難しいほど打たれまくり、右足はあり得ぬ方向へと歪に曲がっていた。殴られた時に内臓が傷ついたようで、ゴポッと口から血液が溢れてくる。痛みを感じるのには体力を浪費する。もはや叫ぶ気力も残っておらず、痛みに顔を歪ませたまま正面を見た。
 自分のこの失態を余す事なく映し記録し続ける忌々しいカメラが、目に映る。この姿を、見られたくはなかった。彼らを守る立場にいて、背中を、その道を、守る場所に居たかった。
 きっとこれを見れば、ルパンは、次元は、自分のせいだと責めるのだろう。あいつらは、何だかんだ言いつつも、気の優しい奴らだから。
「…ッま、ない……」
 ヘッドフォンのせいで自分の声すら上手く聞き取ることは出来ない。
 途切れ途切れの意識の中、痛みで流れていく血や汗と一緒に、ぽろりと一粒堪え続けていたものが溢れた。視界が歪み、与えられる痛みや無力感に心が潰されそうだった。
 自分のせいで彼らは苦しめられ、そしてきっとこの場所へと飛び込んできてしまう。それが止められたならどれだけ良いか。そもそも女にもちゃんと警戒し、こんな状況を作らなかったらどれほど良かった事だろうか。

「…すまな、い……ゆるし、て、くれ……ッ」
 あぁ、自分が未熟でなかったのならば、こんな事にはならなかったのに。
 自分のせいで2人は傷つくかもしれない。そう考えるほどに涙は止まらず、また新たに与えられた痛みに悲鳴を上げることしか出来ないのだった。


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