短編集

□みんなの苦手で嫌なこと1
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「……なんだか変な感じね」
 追手から車で逃げ回りながらふと呟く。ガンガンッと拳銃が放たれ、車の周りを抉っていった。盗みの為に近づいていた男にまだ目論みはバレていないはずだ、そもそもまだ何もしていないのだから。
「他に恨みを買われる覚えは…まぁなくはないけど。こんなにしつこく追いかけ回されるような男を狙った覚えはないのよね…」
 そもそも死んでしまったり追いかけまわせる状態じゃなくなった人達ばっかりのはずだし、と流石に困って眉を下げた。その街はまだ来て日が浅いのでそんなに地理が把握できていないのだ。
「ッこれはマズいわ…!」
 気がつけば人気のない森の方向へと誘導されていたらしかった。街も遠くなり、バンッ!と破裂音と共に車が滑っていく。パンクだ、と気がついた瞬間に顔から血の気が失せていく。スリップした車はあっという間に木に衝突し、止まってしまった。
「んもうっなんで私がこんな目に…」
 慌てて車から飛び降り、仕方なく森の中へと入っていく。いや、正確には入っていこうとしたのだ。
 ドムッと鈍い音が響くと、見たことのない銃弾がすぐ横の木へと着弾した。途端に甘ったるいピンク色の煙を撒き散らし、逃げる事に必死で息を止めるのが一瞬遅れる。
「う、…ぁ………」
 ガクン、と森が逆さまになっていく。いや、これは私が倒れているんだと気がついた時には遅かった。
 霞んでいく視界の中で、何人もの男たちがニヤリと下衆な笑みを浮かんでいるのだけが分かった。


 ふと、頭の割れるような痛みと共に意識が浮上していく。やけに痛む体は、硬い床へと直接寝かせられていたからだろう。
『目が覚めたか、峰不二子』
「…貴方達は誰なの?私に何の用…?」
 ニヤニヤと私を舐め回すように見てくる男達に嫌悪の目を向けつつ、体はひとつも動かせなかった。自分を四角く囲む透明な5枚のパネルだけが邪魔で仕方なく、そして両腕は後ろ手で縛られており、足も折り畳まれた状態で拘束されていた。これでは人がいなかったとしても抜け出す事は困難だろう。
『お前は餌だ。ルパン三世を誘き寄せる為のな』
「…やだ、私は今彼と組んでいないのよ?来るとは思えないわ…ねぇ、彼を連れて来たいなら私が連れて来てあげてもいいわよ」
『自惚れるなよ、ビッチが』
「なんですって!?」
『お前の出る幕はない。どうせ裏切るだろうからな』
 ごぅん、と音が響くと、自身を囲んでいるパネルが段々と狭くなっていった。そして透明だったそれは段々と黒く塗りつぶされ、狭い真っ暗な空間へと徐々に閉じ込められていく…
「…!っ嫌、やめて!」
『貴様が閉所恐怖症だという調べはついている。取り乱しているお前の姿を撮って送りつけりゃ、ルパンはノコノコとやってくるだろうよ』
「嫌っいやぁ…!!」
 みるみるうちに足をお腹へくっつけるように折り畳み、頭を曲げていなければいけないほど狭くなってしまった。完全に黒くなった壁に囲まれてしまえば、残ったのは真っ暗な闇のみ。
 何度蹴り飛ばしても壁はビクともしなかった。今もしその外から蜂の巣にされたら?剣やらナイフで刺されてしまったら?自分はなすすべなく死んでしまうだろう。
 自分は囮なのだと理解している。すぐには殺されないだろうと、頭の中では分かっていた。しかしこの状態から殺された自分の姿は容易に想像できて、ヒュッ、と喉が変な音を立てた。
 これは、マズい。
 敵の思う壺だと分かっていながら、段々と浅く速くなっていく呼吸を止められないでいる。息が苦しい。もしかして、一部の隙間もなくて酸素がないの?待って!
 だめ、その考え方は、だめ…!!
 思考はマイナスへマイナスへと進んでいく。過呼吸気味で酸欠になりつつある体ではもう正常な判断なんてできっこなかった。
「っは、ハァッ…ひゅ、ひゅぐ…」
 嫌な汗が額を伝う。視界はぼやけ、四肢は震えが止まらず全く力が入らない。
「…っう………っぉえ"、」
 ぜぃ、ぜぃ、と自分の不自然な呼吸が耳につく。過呼吸のせいで吐き気を催し、口元を手で覆うことすら出来ずに下唇を強く噛んだ。助けて、と小さく呟き、その声は誰にも届かない。
「たすけ、て…助けて、ルパン…ッ!」
 ポロポロと溢れる涙も拭うことができず、私はそう囁いて意識を手放したのだった。

to be continue…?


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