短編集

□しあわせな家族
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 くぁあ、と大きく欠伸をして、ルパンはふと時計を見ました。
 時刻は午前7時。朝の苦手な彼にしては上出来な時間です。まだ眠たいようで、グシグシと目を擦ります。
「…ん?」
 ふと、鼻につく焦げた匂いにルパンは顔を顰めました。その匂いは、キッチンからしてくるような…?
 それに気がついた瞬間、一気に目が覚めベッドから飛び起きました。慌てて走ってキッチンへと向かいます。
 目的地が近づくにつれ、予想通りの声が聞こえてきました。
「ごえ、まずくないか」
「分かっておる!くそぉ、くそぉ…!」
「……あらぁ何してんのお前ら」
 そこには、色違いのエプロンを付けた二人の男の子が、足台の上で、真っ黒焦げになったホットケーキと格闘しておりました。
 2人はルパンに気がつくと、目をまん丸にして固まりました。状況を見て大体のことを理解したルパンは、はぁ、とため息を吐きます。怒られると思ったようで、2人はビクッと肩を震わせました。
「ル、ルパン…」
「俺様の為にご飯作ってくれようとしたのけ?」
「…うん。おれが、つくってって、ごえに」
「次元!ちがうぞルパン、せっしゃがやろうと言ったのだ!」
 ヤイヤイと言い合う2人を、ルパンはぎゅうっと抱きしめました。ごえ、と呼ばれた子の手に握られていたフライパンをそっと取り上げつつ、怒ってないよと優しく頭を撫でます。
「おこってないのか?本当に?」
「ほんとほんと。けど、火は危ないって言ったろ?次からは俺と一緒に作ろうな」
 そう言い聞かせれば、2人の男の子は少し顔を見合わせてからコクリと頷きました。

 この家には3人の兄弟が仲睦まじく暮らしています。
 長男のルパンはもう大人ですが、年齢や誕生日は一切分かりません。残り2人の「保護者代わり」なんだそうです。大体家にいて2人のお世話をしていますが、何日も家にいないこともあります。
 次男の五ヱ門は、小学3年生くらいです。この年で既に古風な喋り方や着付けをマスターしているしっかり者で、しかしどこか抜けた部分もある子です。腰にはいつも竹でできた刀を挿しています。
 末っ子の次元は、小学一年生程でしょうか。この中では一番小さいですが、もの静かでいつも一歩引いて状況を見ています。我が儘もそんなに合わないので、ルパンは少し寂しいとかなんとか。腰にはピストルの形をした水鉄砲を挿しています。
 これはそんな三人兄弟の、なんてことない日常のお話。

「さて、じゃあ作り直そっか。焼くのは危ないし、2人にはタネを作ってもらっちゃおうかな?」
 そう言いながら、ルパンは手際良く用意を進めていきます。ホットケーキミックスと卵と牛乳を取り出すと、一旦ダイニングへと持っていきました。
 五ヱ門は大人用の椅子で膝立ちに、次元は自分の子供用椅子へちょこんと座ってルパンを待ちます。
「はい、お願いねー」
「まかせろ!」
「ん」
 差し出されたボウルに入っているその材料を一生懸命混ぜていきます。混ぜるのは五ヱ門で、次元は動かないようにボウルを抑えていました。それを傍目で確認しつつ、ルパンは真っ黒焦げなフライパンを洗っていきます。
「派手にやったなー…」
 このままではフライパンの方がダメになりそうだったので一旦水に浸けて放置することにしました。ちょうどそのタイミングでできた!と無邪気な声が聞こえてきたので、2人の元へと足を向けます。
「どれどれ?あー惜しいな、ダマが残ってるぜ五ヱ門」
「なっ…ど、どれだ?」
「ほら、プツプツしてんの見えっだろ?これは粉が塊になってる証拠なのよ」
 こうやって潰してみ、と箸を取り出して器用にそれを潰してみせれば、おぉ…!と五ヱ門は目を輝かせました。
「ルパンはすごいな」
「五ヱ門も慣れればできるって、やってみ?…じげーん、疲れたなら代わろっか」
「…ん」
 動かないよう持っているのは見た目よりずっと疲れます。長めな前髪の下、どこか疲れた様子の次元を見てルパンは役割を交換します。よくできました、と頭を撫でてやれば、次元は小さく笑みを浮かべました。
「さー焼くぞー」
 出来たタネを持ってキッチンへと向かいます。2人が見守る中、箸を使ってフライパンにお馴染みのルパンマークを描きました。
「…?ルパン、これまるくない」
「いいのいいの、見てて」
 不思議そうに首を傾げる次元にそう笑いかけると、そのまま覆い隠すようにタネをまぁるく流し込みました。片面が焼けたのを確認して、くるりと器用にひっくり返せば。
「わぁ…!」
 そこにはさっきのルパンマークが、きちんと描かれていたのです。
 目を輝かせる2人を見て、ルパンは嬉しそうに笑います。焼き上がった一枚を皿に乗せ、2人に目を合わせるようにしゃがみました。
「さぁ、お2人さんはどんな柄がいい?」
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