短編集

□はっぴーはろうぃん!!
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「…はろいん?」
 日本食を求めて街中を歩いている途中、見覚えのあるカボチャ細工と文字が見えた。そうか、今日は10月31日らしい。
 確か、去年は「お菓子を持っていないと酷い悪戯にあっても文句を言えない日」だとは知らず、散々な目に遭ったのだ。アジトに帰る前に気がつけたのは幸運だった。
 きちんと菓子を買って帰ろうと考えたところで、ふと足を止める。
「…たしか悪戯と引き換えに菓子を要求する側は、おばけの真似事をせねばならんのだったか」
 丁度いい。去年の恨みもある事だ、今年は悪戯する側にでも回ろうかと仮装を売っている店へと足を進めた。


「ふんふんふーん」
 上機嫌にアジト内をハロウィンの装飾で飾り付けていく。出かけた五ヱ門は今日が31日だと気がついているだろうか。
「おーこりゃまた派手に飾ったな。不二子でも来るのか?」
 呆れたようにそう言って次元が部屋に入ってくる。あったりまえでしょうよー!と陽気に応えれば、やれやれと首を振ってキッチンの方へと歩いていった。
「五ヱ門が去年のこと覚えてて仕返しに来たらどうする気だ」
「そりゃあ悪戯されんのを楽しむっきゃないでしょ、お菓子なんて用意してないしな」
「はー、そりゃご苦労なこって」
 アジトを壊されないようにしろよ、という言葉に動きを止める。確かに悪戯と称して斬鉄剣でアジトを分解される可能性も、ゼロではないだろう。
 固まった俺に、次元は愉快そうに笑った。
「飴ちゃんでも買って来たらどうだ?」
「…ソウシマス」
 ハロウィーンの飾り付けは一旦休憩し、俺様は街のお菓子屋へと走っていくのだった。


 今日はハロウィーン。街全体が浮き足立って、楽しそうに騒めいている。
 かくいう私もこれから向かう場所が少し楽しみだったりする。もちろん利益もないのに動くようなタチではないので貰う物はキッチリ貰うつもりだが、やはりイベントというのは老若男女問わず楽しめる物だろう。
「そう言えば仮装を買ってなかったわね……」
 致命的なミスに気が付き、仕方なく混み合った店内に入っていく。狙っている獲物的に、なるべく露出の多くて扇情的なコスプレを探していった。
 ふと目についたのは、やれ看護婦だのメイドだの、お化けとは言い難い代物ばかりだった。こんな服装じゃ潜入の時何度もしているので彼らも見慣れているだろう。
 いい物はないかと目を動かせば、ひとつの衣装に目が止まった。あぁ、これなら丁度いいかもしれないわね。
「今年は一体何をくれるのかしら」
 思わず口元に笑みを浮かべながら、私はその仮装を手に取りレジへと向かうのだった。


 実はルパンにも言ったことはないが、俺はハロウィーンというものをちゃんとやった事がない。
 いや、やった事はあるのかもしれないが記憶に残っていないのだ。縁日の射的の話は悔しさが残り覚えていたが、その他の日常の記憶はその後の過酷な過去にかき消されてしまった。
「霊が戻ってくる日、ねぇ」
 カシャカシャ、と泡立て器を動かしながらぼんやりと呟く。別にそんな事はどうだっていいが、幽霊が自分の元に現れたらと思うとゾッとした。アイツら、銃が効かねえから嫌なんだよな。もしどこか一か所でも効くのなら、その箇所を的確に撃ち抜いてみせるのに。
「…せっかくなら、仮装でも買えばよかったか」
 きっとルパンは仮装を用意しているだろう。不二子もそういう部分は抜け目がないし、去年散々な目にあった五ヱ門も用意しているかもしれない。
 俺だけ仮装してないってのも、何だかシャクだ。
「…ま、後ででいいか」
 今作っているこれを放置するわけにもいかない。それに、どうせイベントが始まるとすれば夜なのだ。それまでに買いに行こうかと考えつつ、俺は砂糖と小麦粉を手に取ったのだった。
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