短編集

□いのちだいじに!
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「……ちと多過ぎるんじゃないの?」
 銃創にダバダバと消毒液をかければ、イデッと小さく次元が呻いた。その声を気にせず薬を塗り込み、ガーゼをペタリと貼り付けていく。
「何がだ」
「お前らの怪我。特に次元な」
「そうね、月一で包帯を買い込まなきゃいけないのは勘弁してほしいわ」
 そう言いながら不二子はベッタベッタと五ヱ門の傷へ絆創膏を貼り付けていく。この程度の擦り傷問題ないと止めようとすれば、すごい形相で睨まれシュンと黙ってしまった。
「この程度の擦り傷、を放置して化膿させたのはどこの誰でしたっけ?」
「む…」
「ま、五ヱ門は大抵のことは我慢すりゃ治るって思ってるかんなぁ…ちゃんと治した方がいいぜ?怪我もだし、風邪とかもな」
 面目ない、と五ヱ門がまたシュンとする。それを見て可哀想だと思ったのか、俺の治療を受けていた次元が口を挟んだ。
「修行だと思って我慢しちまうのは仕方ねぇんじゃねぇか?」
「じゃ、修行でもないのに生傷作る才能があるアンタはどうすればいいのかしらね」
「んだと」
 どうやら不二子の矛先は次元に向いたらしい。ギリギリ、と2人で睨み合うのを見て1つ溜息を吐くと、ペチンと軽く次元の頭を叩いた。
「ッテ、」
「次元ちゃんも怪我し過ぎなの、自覚あるでしょーが。なぁんでこんなに怪我するかねぇ」
 俺様心配なのよ?と次元の頬をツン、と突けば、ヤメロ、と手を払われた。
「んで、今日は何で怪我したのよ」
「…ちと昔馴染みに誘われてな」
「またか。では先週の脇腹撃たれたのは?」
「ルパンに恨みがあるとかで急に襲われた」
「一ヶ月前の怪我は、仕事中だよな?」
「あぁ、変装してたらソイツに恨みを持ってた奴に殺されかけたな」
「…運なさすぎじゃないの…?」
 不二子がドン引きしている。当の次元本人は生きてんだからいい方だろ、と言うのだから困ったものだ。
 生きていればセーフ、というこの次元の考え方もなかなか直らない悩みの種のひとつなわけである。
「あのなぁ、次元…」
「いいじゃねぇか、ちゃんとここへ帰ってきてるだろう?」
 そう言われてしまうともう何も言えなかった。五ヱ門は知らないだろうが、昔の次元は怪我をすると猫のように姿を消してしまったものである。
 あれほど警戒心が強かった男がこうやって大人しく治療を受けているだけ、進歩はしているのかもしれない。
「ほんと馬鹿ね」
「あ?」
「怪我してる時点で迷惑かけてんのよ、ルパンや五ヱ門がどれだけ心配したと思ってるの?それにアンタが怪我して動きが鈍れば作戦に支障が出るじゃない」
 不二子の正論パンチに、グッと次元が言葉に詰まった。うむ、と治療の終わった五ヱ門も頷いている。
「拙者、仲間の苦しむ姿を見る方が自分が怪我するよりよっぽど苦痛に思うぞ」
「…別に好きで怪我してるわけじゃねぇよ」
「けど、無理して1人で片付けてる時はあるよねー次元ちゃんは」
 この間の腹の傷だって、無理して十人以上いっぺんに相手しただろうと指摘すれば、どうしてそれを知っているのかと目を丸くした。
「…………」
「…まぁ、昔馴染みに会うなーとか言うつもりはねぇけっどもよ。もうちっと自分のこと大切にしてくれたら、俺様嬉しいんだけどなぁ」
「うむ」
 モサモサした髪を撫でてやれば、少しは悪いと思ったようで珍しくされるがままになっていた。
「折角だし怪我した時の罰ゲームでも作らない?」
「何っ!?」
 目を丸くした次元をよそに、いいねぇ!と俺は手を叩いた。近くの紙とペンを手に取ると、サラサラとそこへ書き記していく。
「さぁっすが不二子ちゃん、いい事言うじゃねぇの〜!」
「ちょっと待てルパ」
「ルパンならでーとを一週間禁止、などはどうだ」
「ええーっ!?俺様死んじゃうぜそんなの」
「あの」
「いいじゃない!じゃあ五ヱ門は修行を三日間禁止ね」
「むっ!?…くっ、致し方ない……」
「んじゃ不二子ちゃんは〜…なぁにがいいんでしょ。アジトの掃除とかかぁ?」
「掃除なんて嫌よ!もう絶対怪我なんかしないわ」
「あとは次元ちゃんの分か」
 三人で一斉に次元の方を見れば、彼は冷や汗をたらりと一筋流した。罰ゲームそんなに嫌なのか。というか何回受ける気なんだこいつは。
「そぉだなぁ…2人は何がいいと思う?」
「次元でしょ?実質一択じゃないの」
「煙草と酒を一週間禁止」
「一週間!?」
 ギョッと五ヱ門を見れば、涼しい顔でできるだろうと返される。不二子も愉快そうにニヤニヤと笑っているだけだ。
「せめて3日!3日にしてくれ!ルパン、頼む!」
「しゃあねぇなぁ、じゃあ3日な。怪我すんなよ、次元」
 あまりにも必死な様子で次元が懇願するもんだから、ついつい甘やかしてしまった。それでも3日禁酒禁煙は堪えたのだろう、彼はどこか不貞腐れた様子で頬杖をついたのだった。
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