短編集

□Shall we dance?
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 グラリグラリと足元が揺れ、小さな島ごと傾いていく。ダンスを踊っていたセレブ達は一様に床へと転び、体勢を保っていられそうになかった。
「何よこれ…!次元、どうなってるのよ。ルパンはどうしたの?」
「連絡がつかねぇ。通信機イカれたなアイツ…」
 揺れる足下に転びそうになった不二子を支えつつ、崩れていく建物に、チッと舌打ちを打った。人工の浮島に建てられたこのビルが揺れるという事は、何らかの人為的な問題が起こったということだろう。
 パーティに参加していた人々は次々に逃げてゆく。かくいう『お見合い結婚した新婚夫婦』という設定で潜入してルパンからの合図を待っていた不二子と俺も、何とか出入り口からパーティルームを脱出した。
「…な、」
 外は阿鼻叫喚だった。このビルにいる人間を殺して関係ない者も含め口封じをしようという魂胆だろう、見境なく飛んでいく銃弾に流石は腐れマフィアだと眉間にシワを寄せる。
「…仕方ないわね。突破するわよ」
「分かってる」
 ドレスを一気に破る不二子を片目で見つつ、ワックスでオールバックに流した髪を隠すようにして帽子を深く被る。
「しっかしこんな崩れかけのビルで傾いてるとなっちゃ、銃口がロクに定まらねぇな…うおぉっ!?」
「キャアッ!?」
 ガコン!とまた一際大きな揺れが生じ、慌てて不二子を自分の方へと引っ張った。背を預けていた壁が傾き、崩れたその先から敵が銃でこちらを狙っている。
 不二子は俺にのしかかった体勢のまま、敵目掛けて銃をぶっ放した。逆側から敵が迫るのが不二子の頭越しに見え、視界の悪い中相手の銃を弾き飛ばしていく。
「…最悪な状況だな」
 かかってくる体重にそうボヤけば、何よ、と上から不満げな声が降ってきた。
「悲観するほどの状況でもないでしょ、そこまで敵も多くないし」
「戦況が、じゃねぇ。今の状態に対して言ってんだ」
「ふん、それは同感だわ」
 お互いに顔を見合わせて顔をしかめる。重なり合った状態から抜け出す暇もなく放たれる攻撃に、そのまま2人で転がるようにして避けていく。
「危ねぇっ!」
「ひゃっ」
 不二子を狙う銃口に慌てて彼女の頭を抱き込み、そのまま銃を撃ち落とす。
「ちょっと、ボーッとしないでよ!」
 グン、と体を引っ張られれば元いた場所が蜂の巣になる。ゴロゴロと転がる体を止められず、銃口が定まらない。
「まったくもう!」
「んぐぅっ!?」
 ガンッ!とヒールの高い靴で足を踏ん張ると、俺の体がガクンッと回転をやめた。即座に標準を定め、一撃で足を撃ち抜いていく。
「ったく、こんなにグルグル回ってりゃ目が回っちまう!」
「いいじゃないの、さっきまでロクに踊らずに体力温存してたでしょ!?」
「ハッこれがダンスだって言いたいのか?随分お洒落でいいこった!」
 自分で言いながら、確かにダンスのようだと思わなくもなかった。クルリと回り、互いを支えて守り合う。
「…お?」
 ようやく静かになった廊下に、ふと窓の外を見ればルパンと五ヱ門が走っていく姿が微かに見えた。奴らの追手に人員を割いたようだ。
「んもう…スーツが汚れちゃったわ」
 はぁ、と困ったように不二子が溜息を吐いた。いいから脱出するぞと声をかけようとして、思わず動きが止まる。
「…どうしたの?」
「……俺達の脱出方法、ヘリじゃなかったか?」
 その言葉に返事をするように、ビルの傾きで小型ヘリが下へ下へと落下していった。
「…船しかねぇな」
「もう、なんなのよ…!」
 ぶら下がっていたロープを掴み下へと一気に降りていく。下で見廻りをしていた敵を的確に撃ち抜くと、そのまま船のそばへと着地した。
「燃料は!?」
「入ってるわ!」
「よし、エンジンかけろ!出せ!!」
 発進する直前、括られていた縄を最後のマグナムの一発で切った。勢いよくエンジンが蒸され、上体が揺れる。
 撃ち倒した相手が痛みに堪えながら、こちらへと銃を向けた。
「伏せろ不二子!!」
 パァン!と発砲音と共に左手を伸ばし狙っていた不二子を遮った。弾は俺の掌を貫き、避けた不二子の腕を掠ってガラスへと突き刺さった。
「…疲れたな」
 遠ざかっていく浮島を見ながら、はぁっと息を吐き出した。
「ちょっと次元、こっち来なさい。包帯くらいなら巻いてあげるわ」
 手招きされ渋々そちらへ移動する。左手を撃たれたせいで処置がしにくいからだ。
「まったく酷い目にあったわ」
「先に自分を治療したらどうだ?体に傷がついたら困るだろう、お前さん」
「うるさいわね、ジッとしてなさいよ」
 シュルリと包帯を巻かれながら自動操縦に切り替わった船の行く先を見る。きっとあと30分もすれば、ルパン達と合流できるだろう。
「…ま、たまにはこんなダンスもいいものね」
 ぽつりと呟いた独り言に、俺は聞こえないフリをした。
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