短編集

□異常事態発生中!!
1ページ/8ページ

 今日の朝ごはんは次元の当番であった。目玉焼きにはたっぷりのベーコンを敷き詰め、食パンを二枚スライスするとトースターへと差し込む。五ヱ門の分の米を器に盛りつつ、瞑想している彼に声をかけた。
「五ヱ門、ルパン呼んできてくれ」
「…む?あやつまだ起きていないのか」
「みてぇだな。珍しいこともあるもんだ」
 休暇中に寝坊するのはしばしばあることだが、今は仕事前の準備期間なのだ。奴は仕事前の準備を一番入念に行うのでこの期間に寝坊することはまずないのだった。
「分かった、行ってこよう」
 仕方のない奴だ、と五ヱ門はため息を吐くと立ち上がりルパンの部屋へと入っていった。それを横目で確認しつつ、今日の分のコーヒーを丁寧に淹れていく。
 不意に、バンッ!と勢いよく扉が開けられ並々ならぬ顔をした五ヱ門がこちらへと走ってきた。あまりの剣幕に思わず朝食を用意する手が止まる。
「どうした。女でも連れ込んでたか?」
「次元、ルパンが、ルパンが…!」
 その言葉を聞いた瞬間、次元は手に持っていたコーヒーの計量スプーンを放り投げるとルパンの部屋へと駆け込んだ。

「ルパンっ!?」
 扉を開け放ち中を見れば、ルパンはベッドで眠っていた。しかし俺の焦った声にも反応がなく、起きる気配すらない。
「…ルパン……?」
 隣へと歩いて行き、顔を見る。ダラダラと尋常じゃない汗をかき、顔は真っ赤に染まっていた。おでこに手を添えれば、思わず驚き手を引っ込めてしまうほどの熱。
「おまっ…まさか、風邪か!?」
 次元は驚きのあまり、何度も目をパチパチと瞬いたのだった。
 慌てて救急箱から体温計を持ってきて奴の脇に挟む。五ヱ門に氷枕を作ってくれと指示を出し、あっと頭を抱えた。
 体調不良だということを全く考慮していない朝ごはんを作ってしまった…そもそも食えるかどうかもわからない。仕方がない、残った分は五ヱ門に食わせようと心に決めて、ピピピと鳴り響いた電子音に脇の体温計を手に取った。
 40.9。………40.9!?
「…何だこりゃ…どういうこった」
 普段ルパンは滅多なことでは体調を崩さない。北極で全身氷漬けになった時もちょっとした風邪で済んだような化け物だ。だというのにこんな高熱を出すなんて、何かあったとしか思えなかった。
「ルパン、おいルパン」
 ペチペチ、と軽く頬を叩いてやれば漸くうっすらと目を開けた。熱で潤んだ瞳で、じげん…?と奴にしては小さな声で呟く。
「そうだよ。何があったんだ?熱が40度もあんぞ」
「あー…今度の作戦で使えるかと思って、『どんな元気な奴でも風邪になる薬』を作ったんだけっども…」
「…まさかオメェ、自分を実験台にしたんじゃねぇだろうな?」
 思わず低くなった次元の声に、ルパンはてへ、と舌を出して戯けてみせた。
「っんの、馬鹿!!」
「やめっ次元ちゃん俺様今ちょっとでかい声無理…」
 ガァッ!と吠えれば頭を抱えてしんどそうに目を細めた。思わずすまん、とボリュームが下がる。
「…じゃなくて。何自分の体で実験してんだ、もうすぐ仕事だろうが」
「いやぁ、本当はもっと早くに効き目が出て今頃は元気な予定だったんだが…調合ミスったなー……」
 そう言ってしんどそうに熱い吐息をはぁ、と吐き出す。見るからに辛そうな様子に、やれやれと首を振った。
「何日続くんだ、これぁ」
「んー…大体3日くらいでねぇの?予告状出す前でよかったー…」
 ほっとしたようにそう言うルパンのおでこを、ビシッとデコピンしてやった。驚いたように目を丸くして次元を見る。
「何がよかった、だ。どんだけ心配したと思ってんだ?」
 ギ、と睨みつければ目をパチパチと瞬く。心配してくれたんけ?とぬかすルパンに、ビキッと次元の眉間にシワがよった。
「……お前なぁ…」
「え、何、次元ちゃん怒ってる…?」
「…いいか?よく聞けよ?もし俺がわざと銃弾受けて倒れてみました、なんつったらルパンはどう思うんだ?」
「……怒る」
「だろ?そういうこった」
 子どもにするように言い聞かせれば、ごめん、とルパンは小さく謝った。熱のおかげか多少は素直になっているようだ。分かればいい、とそこら辺にかけてあったタオルで顔を拭いてやる。
「食欲は?なんか食べれそうなら食っとけ」
「うーん…ご飯はいらねっかな」
「…その風邪には薬は効くのか?」
「効くわけないでしょ、効いたら意味ないもの」
「解熱剤は?」
「効かない」
 はぁ、と呆れて思わずため息を吐いた。そんな薬をなんで自分で試そうと思ったのかと頭を抱える。
「なんかは食っとけ、体力がもたねぇよ。ちょっと待ってな」
 そう言って立ち上がり、一応ルパンの様子を確認してからドアを閉めた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ