短編集

□みんなの苦手で嫌なこと4
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「…なんだぁ?うるせぇな」
 ピロロロロロ、ピロロロロロロロッと鳴り続ける電話に思わず作業の手を止めた。次元があるはずだというのにどうしたのだろうか、タバコでも買いに行ったかなと仕方なく席を立って電話を取る。
「はぁいどちらさまでしょー?」
『ルパン三世だな』
「あったりまえだろ他に誰がいるってんだ」
 受話器越しにも伝わってくる殺気に、にぃっと笑みを浮かべた。余裕だとかそういう意味ではなく、条件反射で。
『俺はお前を殺す者だ』
「ほー!すっごい自信。そーんなに簡単に殺されてあげるほど優しくないぜ俺は」
『いや、俺はお前を殺せる。確実に、だ。だがお前に苦渋を舐めさせられた者としては、ただ殺すんでは芸がない』
 思わず受話器を持つ手に力が入る。こいつが自信満々なのはなんでだ?何を根拠にこんな事を言っている?
『お前には盗み出してもらう。…お前の仲間自身をな』
「は?」
『証拠を見せてやろうか。ほれ、なんか叫ばせろソイツに』
 受話器の向こうにいる相手が合図を出せば、ガタガタッと何やら物音が響く。
『ほーら、追加の時間だぜ』
『ッあ、あぁあ"…』
『とうとうまともな言葉すら喋れねぇでやんの!!ギャハハハハハ!!』
「…次元!?おい、次元か!?」
 本人が絶対にしないような声だったが、紛れもなくそれは聴き慣れたローバリトンの彼だった。怯えたように声は引き攣り、何かをされた瞬間に叫んでプツリと声がしなくなる。
『他2人の様子も次元が壊してなきゃ家を探しゃあ出てくるだろうよ。じゃあな、せいぜい頑張ってこの場所を探すこった!』
 ブツン、と通信が切れる。俺は静かに腕を下ろすと、そのままリビングへと向かった。
 次元の置き手紙と冷め切ったシチューだけが残されていた。テレビを見れば使われた痕跡があり、そのまま入っていたDVDを再生する。
 助けて
 すまない
 そんな仲間達の悲痛な声を、ただ無表情で聞いていた。最後の言伝を聞いて納得する。なるほど、確かにこの手ならば次元が俺に声をかけず出かけて行ったのに合点がいく。
 場所は分かった。後は…アイツらを盗み出すだけ。それだけ。…だが

「いーくら殺しを嫌うってったってよぉ…俺様だって怒る時くらいあらぁな」

 静かにそう呟き、持ちうる全ての武器を持って外へ出た。残っているのは車の方で、次元のやつこうなる事を予想していやがったなとどこか他人事のようにそう思う。車の方が道具をたくさん積み込めるから残しておいたのだろう。
 俺は怒っていた。それはもう、かつてないくらいに。怒りで我を忘れないよう、必死に衝動を抑え込む。
 一度見逃してやった命に、こんな仇で返されるとは。
「やっぱし情けは自分のためになんねぇな」

 二度とこんな事が出来ないように、馬鹿な敵達にしっかり刻み込まねばなるまい。
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