短編集

□みんなの苦手で嫌なこと3
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「ったく五ヱ門の奴…連絡途絶えやがった」
 チッと舌打ちをして携帯を放り出す。一体どこの秘境で修行してんだか、仕事だってのに連絡がつかねぇとどうしようもねぇな、なんて考えながら今夜の晩ご飯を作っていた。
 ルパンはしばらく姿を見せていない。どうやら次の仕事は相当でかいらしく、準備で忙しそうだった。尚更五ヱ門の力が必要だろうと考えて、ふと峰不二子のことを思い浮かべる。
 そういや暫く顔を見ていない。またどこぞの富豪でも引っ掛けて遊んでいるのだろうか。そんな姿を想像したら予想以上に面白くなく、ケッ、と悪態をついてシチューの鍋をグルグルとかき回すのだった。
「郵便でーす」
 その声に一旦火を止め、玄関へと出る。届いたのはちょっとした小包で、誰から来たのかは書かれていなかった。宛先は、…俺、次元大介。
「…郵便物なんざ頼んだ覚えはねぇな…」
 耳を当てたり色々したが、どうやら爆発物の類ではなさそうだった。仕掛けもなさそうだ。
 ぺりぺり、と包みを剥がして中から出て来たのは一枚のDVDだった。TVの電源を付けるとアジトの滅多に使わないレコーダーへと挿入し、再生ボタンを押す。
 まぁルパンの悪戯かな、程度に思っていた。
『いやっやめて!!』
「不二子…!?」
 映し出されたのは不二子の姿だった。狭い箱のようなものに閉じ込められ、段々と様子がおかしくなっていく。呼吸が早まり、手が震えてボロボロと涙を流す。その症状に、身に覚えがあった。
「恐怖症の…って事は不二子は閉所恐怖症だったわけか……」
 分かっていて嫌なことを無理に体験させている。これは相当なゲス野郎に捕らえられたな、と呆れていれば、
『たすけ、て…ルパン…ッ!』
 その言葉を合図に、ブツンと画面が切り替わった。
 薄暗い、拷問室だ。中心に捕らえられているのは
「五ヱ門…!!」
 連絡がつかないとぶつくさ言っていた彼だった。そりゃ連絡出来ないわけだ、捕らえられて拷問を受けていたのだから。
『ぁああああ"ッ…!!』
「…ひでぇ事しやがる……」
 常人なら思わず目を晒したくなるような惨い拷問の数々に、眉間にシワが寄るのが分かった。足が折られ放置されていて、ひどく腫れ上がっていた。あれでは自力で逃げられないなと舌打ちする。
『すまな、い……ゆるし、てくれ…ッ』
「………」
 何を許すってんだよ、五ヱ門。
 お前さん、なんも悪いこたぁしてないだろうに。
 ブツッ、とまた映像が切り替わる。場所は分からず、現れたのも覆面の男達だった。
『映像を見たな、次元。今から言う場所へ一人で来い。もしちゃんと来たなら此奴らに手を出すのは止めてやろう。一人でなかった場合、二人は即殺す。分かっているな?』
 最後に地図とその住所が出てきて、動画は終わっていた。はぁ、と盛大に溜息を吐く。
 恐らく奴らの狙いはルパンだろう。あいつを1人にし、精神的にも追い詰めるためにこんな事をしている訳だ。
「ったく、仕方ねぇな」
 CDはレコーダーに突っ込んだまま、TVの電源を切った。せっかく今日はシチューを作ったのにもったいねぇな、と苦笑しつつ、サラサラとメモを書く。
『ルパンへ。すまんが野暮用が出来た。恐らく数日ほど戻らないと思うから、もしなんかあったら連絡してくれ』
 これでよし、と満足して頷いた。依然ルパンは作業場から出てくる様子はない。
「…すまねぇな、相棒」
 小さく謝罪を口にして、玄関の扉を開けた。外に止められた車とバイクを見て、バイクを選び跨がる。
 腰にはしっかりと愛用のコンバットマグナムが差し込まれている。恐らく出番はあまりないだろうが、頼んだぜとひと撫でして言われた場所へとバイクを走らせるのだった。
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