短編集

□しあわせな家族
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 お留守番の日

「じゃあ行ってくっからな、いい子でお留守番してろよー?」
「けがのないよう、気をつけるのだぞ、ルパン」
「………」
 荷物を持って一週間ほど出かけるルパンを2人で見送ります。五ヱ門はしっかりしたものですが、次元は五ヱ門の後ろでその着物の裾をぎゅうっと握りしめていました。
 次元もあいさつせねば、と五ヱ門が促しますが、イヤイヤと首を振るばかりです。
「…じーげんちゃん」
「!」
 ルパンはそんな次元に近づくと、驚いている彼の口にマシマロを放り込みました。小さな口が大きなマシマロで、もふ、と膨らみます。
「お土産、何がいい?」
「…るぱんがいい」
「んー、それ以外だと助かるなぁ」
「……あめっこ」
「はいはい、了解」
 にっこり笑って次元の頭を撫でて立ち上がれば、拗ねたように頬を膨らました五ヱ門がルパンを睨んでいました。ふは、とルパンは吹き出すように笑うと、ポケットからチョコレートを取り出し五ヱ門の口に入れてやります。
「んむ」
「五ヱ門ちゃんは何がいーい?」
「むぐ…わがしがよい」
「はいよ。俺様がいない間、次元ちゃんの事頼んだぜ?」
「!こころえた」
 任せられたのが嬉しかったようで、五ヱ門の表情が緩みました。それを確認してからルパンは車へと乗り込み、エンジンを蒸します。
「じゃ、いってきまーす!」
「いってらっしゃい、ルパン!」
「…らっさい、」
 こちらにむかって手を振る2人をバックミラーで確認しつつ、ルパンは目的の場所へと走っていきました。

「…うむ。ではふじこが来るまであそぶか、じげ、…あ」
「……」
 五ヱ門が振り返ると、次元は声も出さずにぽろぽろと泣いていました。
「次元、ルパンはすぐにかえってくる。大丈夫だ」
「………」
「男たるもの、ないてはいかんのだぞ」
「……」
「次元…」
 何を言っても泣き止みそうにありません。五ヱ門は途方に暮れてしまいました。次元が泣くのは滅多にない事ですし、泣いた時はもっぱらルパンが泣き止ませてくれるのです。
「あら、どうしたのよ」
 そんな時でした、知った声が上から降ってきたのは。
「!ふじこどの、次元がだな…」
 五ヱ門はそれを伝えようとしましたが、次元は泣いているのを不二子に見られたくなかったようで後ろへと隠れてしまいました。
「ヤダ、次元たら泣いてたの?可愛いとこあるじゃない」
「っないてない!!」
 揶揄うようにそう言われた瞬間、次元は噛み付くように返しました。2人の間に挟まれ、五ヱ門はほとほと弱った様子です。
「ま、さっさと家に入りましょ。泣き虫ちゃんが疲れて寝ちゃったら困るしね?」
「だからっないてない!」
「次元おぬし、そんな大きな声が出せたのか…」
 珍しい姿に目を丸くしつつ、次元の紅葉のような手をぎゅっと握って不二子の後をついて行きます。不二子は悠々と家の中を歩き回り、あら?とひとつの扉の前で立ち止まりました。
「この部屋いつ来ても閉め切ってるわね」
「あぁ、そこは『あかずの間』だぞ、ふじこ」
 開かずの間?と聞き返した不二子に、五ヱ門は大きく頷きました。
「大人にならねば、せっしゃたちは入れぬのだ」
「ふぅん、『大人になったら』入れるわけね」
 どうやら不二子の興味はそれで尽きたようでした。教えてくれてありがと、五ヱ門、と頭を撫でようとすれば、目を真っ赤に腫らした次元が後ろからシャーッ!と威嚇します。
「あら、悪い子にはご褒美あげないわよ?」
 そんな次元を見て不二子はニヤリと笑うと、胸元から美味しそうな苺のロリポップを取り出しました。次元の目が大きく見開かれます。
「欲しいの?」
「〜〜っいらない!!」
「そ、じゃあ私が食べるわ」
 そのまま目の前で、不二子は美味しそうにロリポップを頬張りました。次元がショックを受けたように固まっているのを見て、アハハと愉快そうに笑います。
 流石に可哀想に思えたので、五ヱ門は不二子に声をかけました。
「ふじこどの、せっしゃの大切なおとうとを、あまりいじめないでほしい」
「生真面目ねぇ五ヱ門。あ、ほらアナタの分もあるわよ」
「ムグッ!?」
 そのまま開いている口に飴を捻じ込まれます。黒飴でした。美味いな、と思わず呟きました。
 1人だけなにも貰えてない次元は、しかしそれでも屈するものかと不二子を睨みつけています。
 不二子はひとつ溜息を吐くと、次元の眉間を指でグリグリと押しました。
「!?」
「顰めっ面してるとシワになっちゃうわよ。やめときなさい」
 そう言って、そのまま次元の口にブドウのロリポップを入れました。当の本人は不思議そうに目をぱちくりと瞬いています。
「アンタ、ブドウ味が一番好きでしょ?」
 ふふ、と笑ってそう言えば、次元は弄ばれたのが気に食わなかったようで、ふんっ、と顔を背けてしまうのでした。
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