短編集
□しあわせな家族
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お勉強の日
「あ、そういや今日とっつぁん来る日だな」
ふと気がついたようにルパンが顔を上げました。それを聞いた五ヱ門と次元の顔がぱぁっと嬉しそうに明るくなります。
毎週、必ず一回銭形という名前の家庭教師が遊びにきます。常日頃はルパンから勉強やら体術を教わっている2人ですが、偏った知識にならないようにということで呼ばれているらしいです。
「今回のみやげがたのしみだな、次元!」
「そーだな」
「あぁらま、目ぇ輝かせちゃってもう」
にこにこと上機嫌に話し合う2人を見て苦笑すれば、リンゴーン、とチャイムが鳴り響きました。噂をすれば、というやつです。
ルパンが立ち上がるよりも早く、五ヱ門がパッと立ち上がってペタペタと走って行きました。その後ろを慌てて次元が追いかけます。
「好かれてんなぁ…」
それを見ながら、ルパンはどこか寂しそうに笑みを浮かべるのでした。
さて、所変わって玄関前。
「む?」
大きな皮の鞄を持った銭形は、中から聞こえてくるパタパタという軽い足音に眉を片方上げました。少し姿勢を低くします。
そしてカチッと鍵が開く音とほぼ同時、勢いよく開いたドアと一緒に飛び込んできた塊を器用に受け止めました。
「ぜにがたどの!」
「五ヱ門か。元気にしとったか?」
「うむ!毎日、めいそう、とやらをしておる!」
「変わらんなぁお前さんは」
苦笑する銭形に五ヱ門はキョトンとしましたが、後ろから響いてくる足音にくるりと振り返りました。
「こんちわ」
「おぉ、次元。こんにちは、挨拶できて偉いな」
一歩離れた場所にいた次元をヒョイッと抱きかかえると、そのまま2人を抱っこして中へと入っていきました。
「よぉとっつぁん!元気そうじゃねぇの」
「先週会っただろうが。ほれ、土産だ」
そう言って銭形がルパンに投げ渡したのは、羊羹とロリポップでした。ルパンはあんがとさん、と羊羹を冷蔵庫に入れる為にキッチンの方へと向かいます。
「よし、じゃあ勉強するぞ。今はどの辺をやっとるんだ?」
「せっしゃは、分数だ」
「んー…たしざん」
「そしたらワークを開け。分からない事があればいくらでも教えるからな、分からないままにしないでちゃんと聞けよ」
そんな会話をしていればリビングはあっという間に着きました。2人を下ろせば、イソイソとワークを持ってきてテーブルへと広げていきます。
銭形は手持ち無沙汰にそれを眺めていましたが、特に迷うこともなく解いていく2人を見てふと口を開きました。
「賢いな、お前さん達。よく解けとるぞ」
「ほんとうか?ふふん、いつもルパンに教えてもらっておるからな!」
「ん…」
五ヱ門は褒めれば素直に喜び、顔を綻ばせました。一方の次元は照れているのか、かすかに俯いていますがその口元は嬉しそうに緩んでいます。
「そうかそうか、そりゃよかった。今度ルパンが暫く留守にすると言っとったが、それは大丈夫か?」
ピタッ、と2人の動きが止まりました。そのまま銭形の方をゆっくりと見ます。
あ、これは余計なことを言ったな、と銭形はすぐに察しました。
「あ、いや」
「…またか。ルパンはシゴトが大変だからな、しかたあるまい」
五ヱ門は落ち込んだ様子でそう言うと、どこかムスッとした様子でワークの続きをやり始めました。
問題はもう1人の方です。
「……」
しょんぼりとしたまま、手も動かなければ微動だにしません。もちろん2人ともルパンが大好きなのですが、次元はまだ小さい分長い時間離れるのが嫌なのでしょう。
「じ、次元!大丈夫だぞ、不安にならんでもまた不二子が様子を見に来ると言っておったからな!」
「…………」
「じげーーん!」
銭形のフォローが完全にトドメになって、次元はテーブルへと突っ伏してしまいました。可哀想にピクリとも動きません。
「ぜにがた!きさま次元をいじめたな!?」
「ごっ誤解だ!!そんなつもりじゃないんだ!!ただワシはルパンがだなぁ、」
「俺様がどうかしたのけ?」
不意にかかった言葉に、パッと次元が顔を上げました。ルパンは2人のワークを覗くと進み具合を確認します。
「ん、ちゃんと進めたな。3時だしおやつにしようぜー」
「「おやつ!」」
先ほどまで落ち込んでいたのは何処へやら、2人は嬉しそうに笑みを浮かべてワークや筆記用具を片付けていきます。
「…手慣れとるな」
「まーね。ずっと一緒だし」
ふと、銭形はルパンの顔を覗きました。彼の表情は笑顔でしたが、何かを隠しているようです。
「…無理はするなよ」
「わーかってるって。むしろ悪いなとっつぁん、付き合わせちまってよ」
「構わん。これが終われば貴様を逮捕するだけだ」
それに、あいつらの事も気になるしな、と銭形は優しい目でおやつに目を輝かせる2人の子どもを見つめるのでした。