東方幻絵巻

□迫る刻限
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〜白玉楼〜


幽々子「まだ少し、冷えるわね…」


紫「まだ如月だもの。けれど、もうすぐで暖かくなる筈よ」


如月上旬…白玉楼の縁側で幽々子と紫はまったりと茶を飲み、春の到来を心待ちにしていた。


紫「ホント、幽々子は春が好きねぇ……確かに私も冬眠から覚める頃だけど」


幽々子「フフフ、熊みたいな妖怪さんね」


紫「ひど〜い、熊と一緒にしないで頂戴」


幽々子「あら、それは失敬」


悪戯っぽく笑う幽々子。その様子を見て紫は半ば呆れるが、思わずクスリと笑ってしまう。
いつまでもこの時が続きますようにと、願いさえした。
だが…


幽々子「う……ゲホゲホッ…ゲホッ…!」


紫「幽々子!?」


幽々子が左胸を抑え、激しく咳き込む。
咳き込む事は良くあったが、今回のは異常だった為、流石の紫も焦りの表情を浮かべる。
幽々子の咳は収まらず、横になってしまう。


紫「幽々子、しっかりして!誰か……ザン!妖花!」


…………………………
……………………
………………


神無月「病だと?」


妖花「そうだ…」


幽々子が倒れたという報せを聞いた神無月は急いで白玉楼に戻り、妖花に倒れた原因を聞いていた。


神無月「だが幽々子はそんな事を一度も…」


しかし、神無月自身も薄々感づいてはいた。時々起こる咳、それは日に日に増しているという事に…
只、それを認める事が出来なかったのだ。
幽々子が言わずとも、もっと早く……気づき、認めるべきだったのだ。


妖花「幽々子様は……お前に心配を掛けたく無かったのだ……察してくれ」


神無月「だからって……黙ってて、いざとなって倒れてからでは遅いのだ!」


神無月は立ち上がり、幽々子が寝ている部屋へと向かった。


妖花「神無月……それだけではない……幽々子様は…」


…………………………
……………………
………………


神無月「幽々子…入るぞ」


静かに襖を開け、神無月が部屋の中へと入り、幽々子の側に座る。


幽々子「神無月…」


神無月「阿呆、早く言ってくれれば良かったものを…」


神無月は強めの口調で幽々子に言う。
言いづらい事でも、打ち明けて欲しかったからだった。


幽々子「私はもう、長くないの……認めたくなかった…」


幽々子の手に力がはいる。
その手は微かに震えていた。


幽々子「覚悟は……出来てた筈なのに…!」


神無月「幽々子…」


幽々子「情けないわよね……いつかは…いつかは死ぬ定にあったのに……ここにきて急に怖気付くなんて…………ん!?」


神無月は少し強引に幽々子を抱き寄せ、キスをする。
幽々子は呆気にとられ、動かなかった。
暫くして、神無月と幽々子、お互いの顔が離れた。


幽々子「ハァ…ハァ……神無月…?」


神無月「すまない……こういう時、どうしていいか解らなくて…」


幽々子「……いいのよ……ありがとう……私、そろそろ休むわ」


神無月「……わかった。おやすみ…」


神無月は立ち上がり部屋を出、襖を閉める。
部屋を出ると優しい顔から一変、悔しそうな表情をした。
幽々子の病が解らない事ではない、寧ろ逆…原因が解っているのに何も出来ないからだ。


神無月「クソッ……!」


幽々子の身体を蝕んでいるのは…病では無く、『呪い』…
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