苛めたい位君が好き

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「跡部」

「あーん?何の用だ」

「ふふ、何の用だなんて冷たいなぁ。君の所の赤ずきんを連れて来てあげたのに」

「赤ずきん?」

「そう」

「名無しさんじゃねえか。その手どうした」

「あ、あの…ちょっと転んでしまいまして」

「軽い擦り傷だったけど、手当てしたから。それじゃあ俺は戻るよ。ああ、跡部」

「なんだよ」

「名無しさんの事しっかりと見てないと駄目だよ。狼が増えちゃったから」

幸村のその言葉に跡部は眉間に皺を寄らせたが、幸村はそう耳打ちしたあといつも通り笑みを浮かべ氷帝コートを去っていった。
さっきの意味はどういう意味なのか。
立海大のコートで何かあったというのか。
きっとそれを本人に聞いたとしても、何せこの名無しさんは無自覚であるから聞いた所で無駄だろう。
跡部は舌打ちを吐き、名無しさんの手を持ち上げた。

「お前は本当に鈍臭え女だな。1日だけでもいいから怪我せずにいてみろ」

「…すみません」

「大体怪我したら俺様達ん所へ来いと言ってあっただろが。お前忍足の話聞いてなかったのかよ」

「いえ、来ようとしていたのですが精市君が手当てしてくれると言うので…」

「だからって、呑気に大人しく付いてくんじゃねえよ」

「あの…」

「あーん?」

「失礼な事をお伺いしますが、景吾君もしかして妬いてらっしゃいますか?」

「なっ…ば…馬鹿言うんじゃねえ。何で俺様が妬かなくちゃならねえんだよっ。自惚れんな」

「ごご…ごめんなさい!」

全くこの女ときたら、どうしてそう気が付いて欲しい所で気付かず、気が付かないで欲しい所で気付いてしまうのか。
いや、それは確かに妬いている。
妬いてはいるが、この自分が妬いているなどとこの少女にばれてしまう位あからさまに態度に出してしまっている事や、まして名無しさんに気付かれてしまうなんてそんな事は自分のプライドが許せない。
跡部の言葉の真意を読めない名無しさんは、跡部にまたしても怒られてしまったと肩を落としていたが、跡部は溜め息を吐き出したあと名無しさんの頭に手を乗せ優しく撫でてやった。

「ふん…別に怒ってねえんだからんな顔してんじゃねえよ」

「…はい」

「マネージャーの仕事終わったのか」

「一通りは終わりました。あの、桜乃ちゃんは…」

「竜崎なら青学コートに行くと言ってたぜ」

「そうですか。それならば私もそちらに行きますね」

「待て」

「はい」

「あまり他の雄猫に愛想振り撒くんじゃねえ。それから…」

「それから?」

「…夜、俺様はミーティングがあるがその後お前の部屋に特別に行ってやるから待ってろ。いいな」

「は…はい」

名無しさんがそう返事を返すと跡部は満足そうに笑みを浮かべた。
特別に行ってやるだなんて跡部らしい物言いだと思いながらも名無しさんは顔を俯け頷いた。
ここへは、練習の為に来ている事は重々承知している。
けれど、部長として忙しい中わざわざ自分の為に時間を作ってくれる跡部のその心遣いがどうしようもなく嬉しい。
どうしたって緩んできてしまいそうな口元を必死に引き締めながら、名無しさんは跡部にお辞儀をしたあとコートを去っていった。







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