番外編

□君が居ぬ間に
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「ねえ、日吉。名無しさんさん1人に行かせて本当に良かったと思う?」

「そうは言ってもこればっかりは仕方ないだろう」

「おい、長太郎と日吉。心配なのは分かるが今は練習に集中しろよ。全く激ダサな奴らだぜ」

「そう言うてやるなや宍戸。俺かてこいつらん気持ちと同じやし」

「あ、俺も俺も!だって名無しさんって見た目はダサいけどすっごく可愛いから変な虫付いちゃわないかなって心配になるC〜」

「クソクソ!余計心配になるような事言うなよ慈郎っ」

「ます…ます…心配に…なってきま…した」

ストレッチをしながら部員達は、榊から頼まれた資料を他校に届ける為に先程出掛けていった名無しさんの事を話していた。
出掛け間際にあれ程可愛い笑顔を見せられてしまった自分達は名無しさんが誰かにちょっかいを出されないかと心配で心配で堪らない気持ちで一杯になっていた。
だからと言って、自分達がそれで練習を疎かにしてしまったら怪我も治らない体で自分が行くと名乗り出てくれた名無しさんの思いを無下にする事になるし何より名無しさんを悲しませる事になる。
そう思うからこそこうして途中途中で話ながらもきちんと練習メニューをこなしているのだ。

「話ながら練習とは随分余裕じゃねえの」

「だってさぁ…」

「だってじゃねぇ。大体名無しさんだってガキじゃねえんだからいちいち心配なんざしてんじゃねえよ」

「お前にそない事言われとうないわ」

「俺様に口答えするとはいい度胸してんじゃねえか忍足」

「ククッ…なあ跡部。自分気付いてないんか」

「何がだよ」

「メニュー表、逆に持ってんで」

「あーん?」

「ブッ…あははっ!本当だC〜!」

「ププッ…あ…跡部お前…格好付けてる割に激ダサ過ぎるぜ」

「笑ってんじゃねえよっ」

微塵にも名無しさんの事など気にしていないという素振りを見せる跡部の心の内を知った部員達は盛大に吹き出し、そんな部員達を跡部は思い切り睨み付けた。
そうだ。
ここに居る誰より自分は名無しさんの事を心配しているのはまぎれもない事実だ。
あんなに可愛いくて鈍臭くてド級お人好しな名無しさんがあの立海大と青学に行っているのだ。
特に幸村と不二は表面上は優男風だが中身は真っ黒でドSだし、他の部員達に関しては色の濃い奴らばかりだ。
そんな中に名無しさんを1人で放り込むなんて、例えるなら狼の中に羊を放り込むようなものだし、お人好しな名無しさんはちょっと優しい言葉を掛けられたら騙されてしまうに違いない。
跡部は眉間に皺を寄せながら、未だに可笑しそうに笑う部員達を睨み付けた。

「てめえらいつまで笑ってるつもりだ。そんな暇あるならとっとと打ち合い始めろ」

「ふふ、そうですね。散々笑わせて貰ったお陰ですっきりしましたし」

「ふん…跡部さんがそんな調子ならすぐに下剋上出来そうですし練習に精を出す事にします」

「ハッ…勝手にほざいてろ。おい忍足」

「なんやねん」

「今日はあの雌猫共は来てるか」

「ちょっと待っとれ。…ああ、来とんで。せやけど突然どないしたん?」

「ああ、少し考えがあってな。つうか俺様がする事に黙って合わせろ」

「はあ?」

「おい、跡部。お前何考えとんのや」

不思議そうな表情を浮かべる部員達と、何をやらかすつもりなんだという表情を浮かべる忍足に跡部はにっと口端を上げてみせた。
名無しさんが居ないのは丁度良かったのかもしれない。
今から自分が見せる茶番劇を見たらきっとあの人の好い少女は悲しそうな顔をしてしまうに決まっているから。
跡部はそんな事を思いながらコートをあとにしていった。




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